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──時代や社会の変化によって、アート自体の認識も変わるわけですね。それでも変わらない、根幹にある「美意識」のようなものはどのように作ればいいのでしょうか。

日比野:昔はマジョリティが決めるような時代もあったし、企業が「今年の流行色はコレ」みたいな形で大きな戦略を仕掛る時代もありましたが、SNSをはじめとした新しいメディアが出てきて、個人に届く情報もかなりカスタマイズされています。

そうなると流行はどんどん細分化されて、人の数だけ流行があるような状態なのが現状だと捉えています。そこに対応しなければならない企業側は大変ですが、消費者としては、「AよりBだから、Bを選ぶ」ではなく、A〜Zがあればより自分に合ったものを選べます。選択肢が細分化されればされるほど、より自分に合ったものが選べるので、流行の細分化は良いことですよね。

その選択肢の幅がたくさんあるデジタルネイティブが世代が、これからどんどん出てくるわけです。他者とぶつかることに抵抗がなく、自分の意見を主張できる。主張することで生活が不自由になるわけでもないとなると、当然自分の趣味を口に出すようになります。そうすることで、自分の美意識を自分自身で確認できるようになってくる。誹謗中傷の問題はありますが、今後いろいろな法規制も出てくるでしょうし、今はその過渡期なんだと思います。

箭内:「絵の見方がわからない」と言う人はたくさんいますが、教育など何らかの過程で植え付けられた苦手意識が邪魔していると思うんですよ。好きな色や好きな花は、みんなそれぞれ持っているのに、でも絵の見方がわからない、アートって何か難しい、お金持ちの趣味だ、みたいになりがちです。

でも人間は何十億人の中から大好きな人を見つける力もあるし、夕焼けが綺麗だとか、海から吹く風が気持ちいいことは、みんなちゃんと知っていますよね。アートっていうと急にかしこまってしまうようなアートと社会の関係が、日本では長い間続いてきたような気がしています。

そこを取り戻すというか、普通につなぎ直せばいいだけなのではと思うんですよね。日比野さんが言うように、SNSの中でも何が好きで何が嫌いか、何が嬉しいか、日本人もだいぶ言うようになってきたので、アートって本当は当たり前で簡単なことだったのだと、みんなが立ち返るタイミングが来ているのではないでしょうか。繰り返しになりますが、難しく考えすぎず、アート的に物事を考えることを、とにかく楽しんでほしいなと思います。


アートはコロナ禍をきっかけに、その姿を劇的に変容させつつも、これまでより深く日本の生活やビジネスに溶け込み、これまでの慣習を打ち破る一つのきっかけをもたらすであろう。

日比野克彦◎1958年岐阜市生まれ。 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了。大学在学中にダンボール作品で注目を浴び、国内外で個展・グループ展を多数開催。近年は各地で一般参加者とその地域の特性を生かしたワークショップを多く行っている。1995年より東京藝術大学美術学部教員。2016年より同大学美術学部長に就任。1982年に第3回日本グラフィック展大賞、1983年に第30回ADC賞最高賞、1995年ベニスビエンナーレ参加、1999年度毎日デザイン賞グランプリを受賞。

箭内道彦◎1964年生まれ。福島県郡山市出身。1990年に東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業、博報堂に入社。2003年に独立し「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、資生堂「uno」、サントリー「ほろよい」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。2015年には福島県クリエイティブディレクターに着任、監督映画『ブラフマン』公開、「渋谷のラジオ」を設立。2016年より東京藝術大学美術学部デザイン科教員を務める。

文=筒井智子 編集・インタビュー=谷本有香

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