JAXAで欠かせない数学は、具象と抽象のあいだを行き来する学問

ナビエ・ストークス方程式 (c)arc image gallery /amanaimages


チューブウィングの飛行機CGイメージ
シミュレーションが進むことによって、遠い将来、チューブ&ウィング(胴体と翼)と呼ばれる現在の飛行機とは一線を画す、これまで見たこともない未来の飛行機を生み出すことも可能に。それというのも、青山曰く、「全く新しい形態の飛行機に対してはこれまで蓄積してきたデータやノウハウが役立たないので、数値シミュレーションに頼るのが近道だから」。その一例として、高効率発電機を電力源としたハイブリット推進システムのイメージ画像。

青山 学問にも分類がありますが、我々が属する航空技術部門においての仕組みでいうと、まず第1の科学的手法は「実験」、第2の科学的手法は「理論」。そして第3の科学的手法が、数値流体力学(CFD)による「数値シミュレーション」と言えるんですね。相曽は第2の科学的手法である「理論」を行う数学者であり、私は第3の数値シミュレーションを研究している工学者であると。つまり数学者と、スーパーコンピュータという名の計算機のあいだに、数学の理論を計算機にわかるようにプログラムを書く工学者がいるわけです。このようにみんなで役割分担をしながら、物作りをしているので、懸念されているような計算する人間の身体と機械が極端に離れているわけではないんですよ。

──改めて前提や仕組みを知ることって大切ですね。

相曽 青山が言うように役割分担は明確ですが、研究開発を行う上では、この3つの手法をはっきり区別するのではなく、グラデーションでつながっていることがとても大切です。実際はそれがなかなか難しくもありますが、開発力とはなだらかなグラデーションでつながっていることでこそ、育まれるものだと思います。

──そしてその3つをつなぐ共通言語こそが、数式や、数式を利用したNS方程式であったりするわけですね。

相曽 そういうことですね。

数学の本質は、計算ではない


数式を前にする曽根たち
相曽と、数値解析技術研究ユニットの研究者たち。

相曽 もともと数学というと、イコール計算に結びつける人が大半だと思いますが、実は計算はあまり関係ないとも言えるんです。

──それは計算が苦手で数学の世界から脱落した私の立場からすると、視界が晴れてくるお話です。

相曽 例えば原始人にとっては“みかんが3個”と“りんごが3個”は違っていたはずです。実際にみかんやりんごがこの時代に存在していたかは別として。

──どういう意味でしょうか?

相曽 みかんが3個、りんごが3個。加えて羊が3頭、人間が3人いたとします。それぞれ物質としては違うわけですが、どれも「3つ」、存在しているという点では共通していますよね。というように物事を抽象化する、できるのが、数学の本質なんです。

── 「3」は具象ではなく? 抽象に値するんですね。

相曽 例えば物差しで1cmと呼ばれる単位があって、それが3つあるから3cm。1gの重さが3倍で3gは具象ですが、「みかんもりんごも羊も人間も、それぞれ3だった」は、物事の抽象化です。

──確かに。すごく腑に落ちました。

青山 全然違うように見えるものも、ある一つの観点から見ると同じではないか。共通項を見つけるということが、数学的素養の最大の特徴ですね。抽象化する。そういう頭の使い方こそが数学においては一番大事な概念だと思います。
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取材・文=水島七恵

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