──「がんに対するアンコンシャスバイアス」とは、どのような形で現れるのでしょうか。
北風:よくあるのが、職場で「がんになりました」と上司に報告すると、その上司が良かれと思って、「無理しなくていいよ」「ストレスのせいだから無理しちゃダメだよ」といった言葉をかけてしまうケースです。悪気はなかったとしても、本人の同意なく仕事を減らされると、部下は一気にパワーを失ってしまいます。
北風祐子さん
反対に、「一緒に頑張ろう」「話してくれてありがとう」といった言葉をかけてもらえると、がんを抱えながらも前向きに働き続けようと思えるのです。上司に「がんになりました」と伝えたとき、最初にかけてもらう一言でその後の働き方は大きく変わる。これは、「LAVENDER CAFE」で実際に話を聞いた複数のがん経験者から教わりました。
中西:本人に悪気がなくても、優しさから言った言葉が相手を傷つけてしまうことは多々ありますよね。
がんサバイバーを生きづらくさせないため大切なのは、周囲の人が、「自分には『がん=死』という思い込みが少なからずある」と自覚することです。特に部下を持つ方は、がんを打ち明けられたときにきちんと反応できるか訓練しておいたほうが良いですね。実際にネクストリボンプロジェクトでは、「部下にがんと言われたら、あなたはどうする?」という管理職研修を立ち上げてきました。
北風:私も「LAVENDER CAFE」の活動からヒントを得て、アンコンシャスバイアスをなくす社内研修を人事部と連携して実施しています。第一回を先日実施したところ、かなり反応が良かったので、次回は同じくアンコンシャスバイアスに苦しむ「育休明け社員」への対応をテーマに研修を開催する予定です。
「べき」が日本の幸福度を押し下げている
──がんを抱える人を生きづらくしてしまっている要因の一つに、がんに対する周囲の思い込みがあるのですね。
北風:そう思います。がんに限らず、「育児や家事ははこうあるべき」「仕事はこうあるべき」というように、世の中に「べき」が増えるほど生きづらさは増します。全部「べき」のようには絶対にできませんから。
中西:私も同じ意見です。日本の幸福度が低いのは、何においても「べき」が多すぎて、自分の物差しで生きていけないからではないでしょうか。「私はこうしたい」というそれぞれの物差しが受け入れられる社会になれば、もっと生きづらさを感じずに済むと思いますね。
北風:私は正直、病気になる前はあまり「生きづらい」と思ったことはありませんでした。辛いと思う前に戦う性格で、就職してからの25年間ずっと突っ走ってきたので。
でも、病気になったおかげで、「生きづらい」感覚が初めて理解できたんです。どうにもならない、答えが見つからないという状況に陥った人の気持ちが本当によくわかった。もしかするとそれまでは、「生きる」ということすらよくわかっていなかったかもしれません。
中西:なんとなくその感覚はわかるような気がします。
北風:すると、自分の周りの生きづらそうにしている人たちが見えるようになりました。例えば子育て中のメンバーは、子育てのゴールデンタイムである18時から22時の間に打ち合わせが入ると困ってしまうわけです。かと言って、気を遣われて自分だけ外されても辛い。一見小さなことですが、それが積み重なると生きづらくなる。そういう苦しさを理解できるようになりました。
振り返ってみると、私自身も子育てをしながら働くのはものすごく大変でした。生きづらさを抱えながらも、なんとかやりくりしてきたのだということにようやく気づいたんです。