野生植物が香る、アイラ島発のスコットランドジン

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は5月号(3月25日発売)より、「ザ・ボタニスト」をご紹介。ゆっくりと時間をかけて丁寧に蒸留しているため、雑味がなく、すっきりとドライな味わいの1本だ。


アイラ島をご存知だろうか。スコットランド西端に位置し、東京23区ほどの広さの土地に、人口は約3400人という小さな島だ。特産はピート(泥炭)によりスモーキーな香りが強いモルトウイスキー。世界のウイスキー愛好家が「一度は訪れたい」と憧れる聖地のひとつと言ってよいだろう。

そのアイラ島で2011年より生産されているクラフトジンが「ザ・ボタニスト」。現在アイラ島で稼働している9カ所のウイスキー蒸留所のひとつ「ブルックラディ」が手がける、ハンドクラフトのスピリッツである。

2010年代に入ってから世界的なトレンドとなっているクラフトジンだが、その人気の理由はユニークなボタニカルにある。ボタニカルとは、グレーンスピリッツを蒸留する際に加える草根木皮などの植物のことで、ジンといえばまずジュニパーベリー(ネズの実)は欠かせない。ほかにはコリアンダーやオリスなど、各社それぞれ秘密のレシピをもっており、その豊かな風味がファンを惹きつけてやまないのだ。

その意味でも「ザ・ボタニスト」は興味深い。なにしろ、ボタニスト=植物学者の名前を冠されているだけあって、この1本のジンの中に、9種類のコアボタニカル、さらに22種類もの野生のボタニカルが配合されているのだ。その数だけ見てもかなり多く、複雑な味わいが期待できるというものだが、「ザ・ボタニスト」の物語はそれだけでは終わらない。

それぞれのボタニカルは、専任の採取家が日々アイラ島を歩き、自生するミントやアザミ、ハリエニシダなどを環境に配慮しつつも手摘みして採集しているのだという。なんとロマンのあるジンだろうか。

「『ザ・ボタニスト』の素晴らしさはまずこのハーバルな香り。そして、ほかのジンよりゆっくりと時間をかけて丁寧に蒸留しているため、雑味がなく、すっきりとドライな味わいです」と語るのは「IVY PLACE」のバーテンダー、太田拓真だ。

この豊かな風味を生かして、レモングラスやラベンダーを漬け込んだ「ザ・ボタニスト」をエルダーフラワートニックでソーダアップしたオリジナル「ボタニカル・ジントニック」(1250円)がハウスカクテルとして人気なのだそう。

まだ明るい時間なのに、と少し罪悪感を覚えながらもひと口……瞬間、アイラ島の緑濃き森林やヒースが花咲く丘に立っているかのような香気に包まれた。一杯のカクテルで旅に出られるとは幸せだ。

ザ・ボタニスト
容量|700ml
品種|46%
価格|4000円(税込参考小売価格)
問い合わせ|レミー コアントロージャパン
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photographs by Yuji Kanno| text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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