組織や社会を動かすのは「最初は蚊帳の外に置かれた人たち」

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これに一世紀以上遡る1789年秋のフランスであった。パリの広場に集結した多数の主婦たちが、庶民の苦しい台所事情を訴え、ベルサイユ宮殿に向かってデモを敢行した。ベルサイユ「パンよこせ行進」と呼ばれている。その模様を描いた絵画には、やりや矛を携え、大砲を引っ張る女性たちの雄姿が描かれている。この女性たちの行動が、国王ルイ16世一家をベルサイユからパリに引き戻し、フランス革命に拍車をかけたのである。

日本でも歪んだシステムに蚊帳の外から声を上げてムーブメントを起こしたのは女性だった。例えば、1918年の米騒動だ。富山県で夏から始まった女性たちの活動を皮切りに、アッという間に「米よこせ運動」が全国的に頻発した。当時、神奈川県で米問屋を営んでいた私の祖母に口癖があった。「知らないと思って女を怒らせると怖いよ。うちも襲われ、男たちは略奪を終えると帰ったが、女たちはずっと残っていて、おじいちゃんがつるし上げにあっていた」。

最近では、女性の真の力を評価して、社会的に大いに活躍してもらおうという流れになっている。#MeTooはグローバルな草の根運動にとどまらない大きなインパクトをもった。企業社会でも、女性の管理職や役員への登用が当たり前になってきた。

現代の民主的統治制度に試練の嵐が吹きまくるいま、救世主は女性たちなのだろうか。

いや、実は違うと思う。人類は、「男性だ、女性だ」と性を分別すること自体を問題にする歴史的なステージに入っている。問題は、最初から一定の層を議論から排除する思考だろう。蚊帳の外に置かれた人々の不満や怒りは、世の中で共感されやすく、瞬く間に広がっていく。それは歴史が証明してきた。だからこそ、東京五輪組織委員会会長の発言には、令和の時代に昭和に染め抜かれて変われない人々の去るべき日を感じるのだ。


川村雄介◎一般社団法人グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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