大麻密売組織をめぐるクライムアクション 「ジェントルメン」は台詞を楽しめ

「ジェントルマンたち」が繰り広げるクライムサスペンスの行方は(c)2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大は、映画界にも多大な影響を及ぼすことになった。映画の都ハリウッドを抱えるアメリカでも、映画館の閉鎖が相次ぎ、新作の公開も軒並み延期された。

「キングスマン」シリーズの第3作「ファースト・エージェント」(マシュー・ヴォーン監督)も、当初予定されていた公開日の2019年11月が、製作進行の遅れのために2020年の2月に延期されたことから、コロナ禍の影響をもろに受けることになった。

その公開日も、コロナ禍の広がりとともに2020年9月、2021年3月、同年8月、そしてさらにまた先の2021年12月へと変更され、通算で5回もの公開延期を数えることになった。

作品の内容が、第一次世界大戦を背景にした最強の「民間」スパイ組織キングスマンの誕生秘話を描いたものだっただけに、時節に流されないと判断したうえでの公開延期だったと思われるが、まさにギネスブックに記されてもおかしくない「再々々々延期」だ。

そんな「キングスマン ファースト・エージェント」の代わりと言っては語弊があるかもしれないが、期限も延長された緊急事態宣言の最中、公開を迎えた作品があった。多くの映画館が閉鎖され、有力作品が公開延期を余儀なくされたこの時期に、当初の予定通り封切られたのが「キングスマン」ならぬ「ジェントルメン」である。2つの映画のファン層は重なっているので、「キングスマン」の新作を楽しみにしていた人たちの中には、この「ジェントルメン」の公開に拍手を送っている人も多いかもしれない。

散りばめられた伏線を見事に回収


「ジェントルメン」の監督は、ガイ・リッチー。アーティストのマドンナと結婚していた(2000〜2008年)ことでも知られるイギリス出身の映画監督だが、スタイリッシュでありながらも、いつもけっして一筋縄ではいかないその作品づくりは、根強いファンも多い。

ガイ・リッチー監督は、1968年生まれの52歳。少年時代に、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した「明日に向って撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル監督、1969年)を観たことから映画に興味を持ち、15歳で雑用係として映画スタジオで働き始める。

1998年にクライムアクションの長編映画「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を監督してヒットを飛ばし、注目を集める。続く「スナッチ」(2000年)では、ジェイソン・ステイサムやブラッド・ピット、ベニチオ・デル・トロなどの個性派俳優を起用、自身の脚本による緻密に組み立てられた群像劇は、前作とともに高く評価された。

ちなみに両作品で製作をつとめたのが「キングスマン」シリーズの監督でもあり、同じくイギリス出身のマシュー・ヴォーンだ。ヴォーンのほうが少し若いが、ほぼ同世代である2人は当時親友どうしであったということもあり、リッチーの初期作品の製作を担当している。

その後、リッチーが監督する予定だった「レイヤー・ケーキ」(2004年)のピンチヒッターとして、ヴォーンも映画監督としてデビュー。そんな妙な因縁が絡んだ過去の経緯もあり、両者の作品に同じようなメイド・イン・イングランドの洒落たテイストを感じるのは、不自然なことでもない。

公開が延期になった「キングスマン ファースト・エージェント」の代わりに、この「ジェントルメン」をお勧めするのも、まんざら的外れなチョイスではないかもしれない。

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ガイ・リッチー監督は、自ら執筆する脚本に凝ることから、時に難解な作品を生むことがある。特に2005年に公開された「リボルバー」(日本公開は2008年)はさまざまな解釈が成り立つ作品で、その出来には賛否両論の声が巻き起こった。
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文=稲垣伸寿

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