大麻密売組織をめぐるクライムアクション 「ジェントルメン」は台詞を楽しめ

「ジェントルマンたち」が繰り広げるクライムサスペンスの行方は(c)2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.


実は、「ジェントルメン」では、ガイ・リッチー監督は、そのわかりにくさを覆す絶妙な作品構成をとっている。それは115分の上映時間のうち90分近くを、大麻密売組織のネタを掴んだ私立探偵と組織のナンバー2の会話に費やしている。2人が交わす会話のなかで、物語は過去形として進行していく設定になっている。

ある夜、大麻を栽培して密売するビジネスで財を成したアメリカ人のミッキー(マシュー・マコノヒー)の片腕で、組織の中枢を握るレイ(チャーリー・ハナム)が自宅に戻ると、忍び込んでいた私立探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)が姿をあらわす。

フレッチャーは、組織を売り渡して引退を考えているミッキーの犯罪の証拠を所持しており、それをネタにして、ミッキーのビジネスパートナーでもあるレイに、公開されたくなかったら2000万ポンド(約30億円)払えと迫る。しかもフレッチャーは、自分が調べてきた一連の事実を1本の映画脚本にもしており、それをレイに突きつけるのだった。

この作品の「主役」でもあるミッキーの物語が、フレッチャーとレイの会話のなかで語られていく。

ミッキーはアメリカ生まれだが、イギリスの名門オックスフォード大学に入学。苦学生であったため、イギリスの上流階級の子弟たちに自家栽培の「園芸品(大麻)」を売るというビジネスを始める。

その後、大学も卒業せず、アメリカにも帰国しなかったミッキーは、イギリス全土にわたる12カ所の「農園」で大麻の栽培を展開、総資産4億ポンド(約600億円)とも言われる一大シンジケートをつくりあげる。

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しかし中年にさしかかり、ミッキーは愛する妻ロザリンド(ミシェル・ドッカリー)と安らかな人生を送ろうと引退を考え、この大麻ビジネスをそっくりそのまま誰かに売り渡そうと考える。ミッキーが売却の話を持ちかけたのは、アメリカ人の大富豪マシュー・バーガーだったが……。

ここから、ミッキー引退の話を聞きつけビジネスの譲渡を迫るチャイニーズ・マフィア、秘密の農園を襲ったトドラーズ(よちよち仲間)と呼ばれる若者たち、街のジムで彼らを指導している「コーチ」と呼ばれる腕力自慢の男(コリン・ファレル)、そしてロシアの新興財閥の当主など、それぞれの思惑が入り乱れながら、ガイ・リッチー監督お得意の群像劇が展開していく。

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この錯綜とした「ジェントルマンたち」の関係を、ガイ・リッチー監督は、私立探偵のフレッチャーが大麻密売組織組織のナンバー2であるレイを強請るというシチュエーションのなかで、丁寧に順序立てて語っていく。いつもいろいろな仕掛けのあるガイ・リッチー監督の作品にしては、比較的理解しやすい展開となっている。
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文=稲垣伸寿

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