日本人なのに帰国拒否? コロナ禍に空港で起きた「ありえない対応」

コロナ禍で閑散とする成田国際空港。4月に国内2空港で日本人が入国できず、送還される事態があった(Getty Image)

新型コロナウィルスが国内外で猛威をふるい続けており、人命を守るという意味でも経済活動の早期再開を目指すという意味でも、官民一体となって全力でコロナ対策を行うことが重要なのは論をまちません。けれどもその中で、一部の行政府による法律に定められている以上の公権力の行使(あえて言うなら濫用)がみられます。

その一つが、水際対策、特に海外から日本に帰国しようとしていた日本人の「追放・送還」です。

先月、アメリカとオランダから日本に帰国しようとしていた2名の日本人が「コロナ検査証明書」の不備という理由で、成田国際空港、関西国際空港からそれぞれアメリカ、オランダに送還されたという報道がありました。この行政府による措置は、結論から言えば、国内法に明確な根拠が無い「超法規的措置」であり、かつ国際法で定められている基本的人権の著しい侵害につながりかねない極めて憂慮すべき行為です。

入管法、検疫法から紐解く問題点


まず日本人の帰国については、出入国管理及び難民認定法(入管法)の第61条に以下の通り定められています。

「第六十一条 本邦外の地域から本邦に帰国する日本人(乗員を除く。)は、有効な旅券(有効な旅券を所持することができないときは、日本の国籍を有することを証する文書)を所持し、その者が上陸する出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官から帰国の確認を受けなければならない」

つまり、日本への帰国に必要なのはパスポート(またはそれに準ずる書類)のみで、しかも入管当局が行える行為は帰国の「確認」であって「許可」ではない、ということです。言い換えれば、日本の入管当局には日本人の帰国を拒否する権限はない、ということになります。

また、検疫法第5条には以下の規定があります。

「第五条 外国から来航した船舶又は外国から来航した航空機(以下「船舶等」という。)については、その長が検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、何人も、当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚げし、又は当該航空機及び検疫飛行場ごとに検疫所長が指定する場所から離れ、若しくは物を運び出してはならない(以下省略)」

この規定はあくまでも飛行機や船舶の機長への許可を規定したものですが、今回の空港での帰国拒否はこの規定を援用して行われたものと推察されます。ここで重要なのは、この第5条で行政府に認められている行為は、どんなに拡大解釈したとしても、日本の領土への「上陸」の拒否であって、日本の管轄圏外への日本人の追放や外国への送還ではない、ということです。

日本の管轄権は領土のみならず領海および領空にも及びますが、日本は島国ですので、日本人が空港に到着した際にはその人は既に日本の排他的管轄圏内に少なくとも物理的に「いる」状態です。(ちなみにフランス政府が以前、オルリー空港内のトランジット・ゾーンをフランス管轄圏外だと主張していたことがありますが、既に20年以上前にその主張は欧州人権裁判所によって退けられています。)
次ページ > 世界人権宣言が定める、きわめて重要な権利

文=橋本直子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事