日本人なのに帰国拒否? コロナ禍に空港で起きた「ありえない対応」

コロナ禍で閑散とする成田国際空港。4月に国内2空港で日本人が入国できず、送還される事態があった(Getty Image)


私自身も3月にやむを得ない事情からアメリカに渡航しましたが、渡航前72時間以内に高額なPCR検査を受け英文の陰性証明書を確保しなければなりませんでした。先月成田空港からアメリカに送還された日本人女性は、日本から追放される段階で有効な陰性証明書を持っていなかったはずなので、アメリカで再入国を認められない危険性もありました。そうすると、どの国にも入れず2国間の空港内制限区域間を行き来させられる無限のループに陥る危険もあるのです。

上記の理由から、空港内でコロナ検査を受けさせるという極めて簡単な代替措置があるにもかかわらず、法律上は求められていない文書の不備という理由だけで自国に帰るという基本的人権を奪い、他国との間の無限のループに陥らせる危険がある行為を行うのは「比例性の原則」に抵触し、検疫当局による不当行為、権力の濫用と言えるでしょう。

「自国に帰る権利」を巡る、イギリス最高裁の判例が示すこと


「自国に帰る権利」については、イギリスの最高裁で争われ注目を集めたケース(シャミーマ・ビーガム事件)があります。イギリス人のシャミーマは15歳(未成年)の時に自ら進んでイギリスからシリアに渡り「イスラム国」に入隊したが、後悔しているのでイギリスに帰ろうとしたところ、イギリス政府がパスポートを失効させたため、パスポート失効を裁判で争い権利を奪われたという事件です。

これはイギリス国内世論を二分するほど大きな論争を呼んだのですが、結果的に最高裁は「自ら進んでテロ行為に加担した者の帰国は治安上の問題を生じる危険があるので、帰国を阻んだイギリス入管の行為は違法ではない」と判断しました。その判断には、彼女の親の出身国であるバングラデシュ国籍をシャミーマが取得ないし確認できる可能性がある、という背景事情も加味されました。

この事件が日本に対して何を示唆するか。「自国に帰る権利」をはく奪することは、一国の最高裁で争われるほど重大な人権侵害であり、その対象になり得るのはテロ行為に自発的かつ明らかに加担したなどの重大な犯罪者であり、他国の国籍取得(または確認)の可能性がある者でなければ、はく奪するなどという行為は俎上にすら上り得ないということです。

日本政府は従来から二重国籍は禁止していますので、そもそも帰国拒否はあり得ないのですが、「自国に帰る権利」という極めて重大な人権を、国内法上規定されていない書類の不備など軽微な問題で奪うというのは、度を超えた行政措置であることが、このイギリスの最高裁判決からわかります。

ちなみに、もし今回のケースが外国籍を有する人(かつ日本に永住権を有しない人)であった場合は「外国に入国する権利」は国際法でも国内法でも認められていないため、日本からの追放・送還措置は(難民などの特殊な例を除いては)やむを得なかったと言えるでしょう。また、飛行機搭乗前に日本人を含め全乗客にコロナ陰性証明書を提示することを要請するのは、機内での感染防止という観点から十分に理解できます。

しかし、日本の管轄圏内にすでにいる日本人を国外に追放、外国に送還する行為は、どこにも法的根拠がない「超法規的措置」かつ深刻な人権侵害であり、文明的法治国家が行うべきことではありません。先月の成田空港・関西空港での日本人追放措置は、現場の不慣れな検疫職員が勝手に行った単純ミスだったと信じたいですが、二度と繰り返されてはならない不当行為です。


世界と日本の難民・移民問題
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文=橋本直子

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