キャッシュレスで格差拡大も 日本はなぜ「現金主義」なのか

東アジア諸国のキャッシュレス化の動向は?(Photo by Unsplash)


全体的に、日本社会はいまなお現金に大きく依存していますが、その主な理由は自然災害の頻発です。しかし、政府は2050年までにキャッシュレス決済の比率を、現在の約20%から約40%にするという目標を掲げています。

利便さの一方で生まれる格差も


アジアでは、とりわけ金融包摂や消費者保護という観点から、依然として現金決済の需要が少なくありません。

例えば、中国の多くの都市では、モバイル決済手段がなければタクシーの配車や決済、食料品の購入、あるいは飲食店などの支払いまでもが困難になってきています。小規模な商店でも、現金を受け付けない店は少なくありません。韓国では、もはや1600の銀行支店のうち半数以上が、現金による預け入れや引き出しを実施していません。

キャッシュレス
主要国の現金決済比率(イメージ: Statista)

包摂的な金融を発展させることの本来の目的は、すべての個人と企業が、それぞれのニーズを満たす便利で手頃な金融商品やサービスに、公平にアクセスできるようにすることです。

デジタル技術は金融サービスの利用率を向上させますが、デジタル・ディバイド(情報格差)ももたらします。高齢者、農村地域の住民、低所得者層のなかにはデジタル金融の知識やスキルはもとより、デジタル通信機器やネットワークへのアクセスがない人々もいます。

また、現金は海外からの旅行者、未成年者、視覚障害者など特定の人々が基本的な決済をするために必要な保証ともなります。過剰な「キャッシュレス化」により、包摂的な金融という本来の目的から逸脱する新たな金融排除が生まれます。

現金は「安全な資産」 誰も置き去りにしない移行を


一方、モバイル決済の急速な成長過程では、消費者の個人情報が過剰収集される傾向があり、その結果、消費者の連絡先、消費行動、生体認証などの情報が過剰にデータマイニングされるおそれがあります。

サイバーセキュリティ問題も大きな懸念要因です。その一例が、セブン‐イレブン・ジャパンが2019年に公開した、店舗内対面決済用のモバイルアプリ「7pay」です。残念なことに、モバイル決済のセキュリティ対策不備のため同アプリでおよそ50万ドルが不正利用されてしまったため、サービスは開始後3カ月も経たないうちに完全に廃止されました。

モバイル決済のセキュリティを信用できない場合、消費者は現金決済を選ぶことで個人情報や資産の安全が侵害されるリスクを減らすことができます。

現金は理論上リスクのない決済手段であり、安全な資産と見なされています。一方で、商取引機関に依存するキャッシュフリー決済はある程度の運用リスク、市場リスク、信用リスク、さらにはモラルハザードを伴います。このようなことから、現金を保有するという選択肢が消費者の安心感を高めることにつながります。

キャッシュレス決済と現金決済が競合することはありますが、実際のところ、最終的には両者は互いに取って代わるものではなく、補足し合うものです。キャッシュレス社会への移行はゆっくりと進めなければなりません。大切なことは、誰も置き去りにしないことです。


(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Yunzhong Cheng, Partner Engagement Lead, Strategic Partnership, World Economic Forum Beijing

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