ビジネス

2021.05.10

「危機管理のプロ」が学んだ、不正を防ぐ最大の対策

商工中金代表取締役社長 関根正裕


2005年には西武鉄道に出向。有価証券報告書虚偽記載事件を起こした同社の再建に、第一勧銀で行内改革に奔走した後藤高志(現西武ホールディングス社長)が当たることになり、一緒についていった。そこで見たのは、社員の自主性を奪うマネジメントの弊害だった。

「プリンスホテルの某支配人が、『お客様の声は聞かない』と言う。驚いて理由を聞くと、『私たちは堤さんの言われたとおりにやるだけだから』。西武には堤義明さんという絶対的な経営者がいました。そのカリスマ性がグループを成長させたことは否定しませんが、時代が変わったのにマネジメントを変えなかった」

現場の自主性を奪うと組織が腐る。そう感じた関根は全国の事業所を行脚。自分たちで考えることの大切さについて対話を重ね、カリスマの呪縛を解いていった。

その経験は、商工中金でも生きている。本部による目標設定をやめて、各支店に任せたのだ。

「支店長や次長だけでなく、一般職も含めた全職員で論議して目標をつくってもらいました。その結果、地域に合った計画が出てくるようになったし、マネジメントも指示命令型一辺倒から、ビジョン型、民主型、関係性重視型、率先垂範型と支店によって多様化した。いい傾向です」

ガバナンス改革だけでなく、合理化や重点分野への注力なども含めた経営改革プログラムは順調に進捗している。同社が重視するのは、“目利き力”を示す事業性評価に関するKPIだ。ビジネスモデルを共有した取引先のうち、事業性評価を通じて正常運転資金を把握した割合は、95.1%になった(20年3月期)。

「再生や経営改善、成長支援をハンズオンでやれるプロフェッショナル集団にしたい。金融だけでなく、お客様のあらゆるニーズに応えるコンシェルジュバンクを目指します」

危機管理のプロが守りから攻めに転じたときに、何が起きるのか。今後も引き続き注目だ。


関根正裕◎1957年東京都出身。81年、早稲田大学政治経済学部を卒業後、第一勧業銀行(現 みずほフィナンシャルグループ)入行。2007年、西武ホールディングスに入社し、取締役総合企画本部長として鉄道やホテル事業の再建を担う。18年3月より現職。

文=村上 敬 写真=間仲 宇

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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