経済回復へ前進するニューヨーク ポストコロナの社会を映し出す

低リスクの野外活動などは再開され、タイムズスクエアにも活気が戻ってきている(4月10日/John Lamparski/Getty Images)


それでも、ニューヨークの街は落ち着きを見せており、スーパーマーケットでは以前は入口に置いてあった消毒用のアルコールもいつのまにか撤去されていたりする。近くのウォルマートに行ったときにも、在庫処分コーナーにマスクや消毒用のアルコールが山のように積まれ、500mlボトルが1本1ドルで投げ売りされていた。同じボトルが10ドルもしていた昨年のことが夢のようである。

「日常を取り戻すとはこういうことか」と慨嘆するような光景にも出会うようになり、その新鮮さに驚くことが多い。1年前には、人影がまったくと言っていいほどなかったタイムズスクエアも、旅行客らしき人の姿がかなり増えてきている。日本のGoToトラベルのような、ホテル代が格安な国内ツアーもあるらしく、ヒスパニック系旅行者のグループも数多く見かけた。

私も、全員がワクチン接種を終えたメンバーで、ブルックリン区の南端にあるコニーアイランドのボードウォークへ散歩に出かけたが、近くの水族館もチケットは売り切れ、駐車場は満杯で、家族連れがたくさん押し寄せていた。

ワクチンが接種済みであれば、屋外でのスポーツや運動はマスクをしなくても良いラインにまで規制が緩んだため、普通にジョギングする人もずいぶん多く見かけた。レストランも定員50%までの屋内飲食が可能になっており、活気が戻ってきている。近隣の公園なども週末はかなりの人出である。私の顧客であるベーカリーの店主も、7月1日には営業時間が100%元に戻る予定なので、「希望が見えてきている」と話していた。


マンハッタンのブライアントパークにある屋外レストランも多くの客で賑わう(5月4日/Getty Iamges)

オフィス街の人の戻りはまだ読めないが、仕事以外の日常生活を取り戻すスピードは、この1年間の反動からか、予想よりもかなり早く、アメリカ全体の需要回復のほうが先走っており、供給側が間に合わないのではないかと思わせる勢いがある。

長距離トラックやトレーラーの運転手は、この1年で仕事の減少から転職してしまった人も多く、実はかなり不足している。その結果、国内の食材の流通スピードが、経済再開による急激な需要の伸びに追いつけず、遅れが出始めている。この夏には石油を運ぶタンクローリーの運転手が不足し、アメリカ国内のタンクローリーの20%〜25%が稼働できず、ガソリン供給に支障を来すという懸念も出てきている。

昨年いったんレイオフされたり、従業員が離職したりしたため、需要が回復しても急には人手が確保できず、今後、各業界で需給の歪みが生まれ、解消されるまでには少し時間がかかり、経済回復の躓きの要因になり得ると見られる。人手の需給の歪みが、経済回復時には出やすいという点は、今後、経済回復をしてくる国にとっても参考となるケースになるのではと考えられる。

これまでに例を見ない住宅市場へのお金の流れ


アメリカのGDPは、1Q(第1クォーター、最初の四半期)は6.3%の伸びで、個人消費も1人1400ドル(約15万円)の連邦政府からの支給金の影響もあり、10.7%伸びている。

他にも回復基調の数字を上げると、3月の輸入価格は1.2%、卸売物価は2011年以来の4.3%、小売りの売上げは9.8%、それぞれ上昇。消費者物価も4カ月連続で上がってきており、年換算では2.6%になる2年半ぶりの伸びを見せ、経済回復基調に伴い、インフレーションの傾向も見てとれる。

中古車価格もこの1年で10%上がり、半導体の不足から新車生産が遅れるなかで、中古車市場へと需要が流れ、平均販売価格も2万ドルとなっている。またモーゲージレートが3%と低く据え置かれるなかで、中古住宅の販売は1.9%の伸び、マーケットに出して、2週間足らずで買い手が付き、速いときには即日買い手が付くくらいである。
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文=高橋愛一郎

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