谷本:構造的な問題を含めてこれからの日本、あるいは日本社会の課題は?
グルース:日本の科学研究予算はこの10年間で減額され、政府が公的に投入している研究予算は国内GDPの0.65%です。ちなみに、ドイツの割合は科GDPの1%とです。また、日本のベンチャーキャピタルはアメリカのわずか3%で、ここ最近は少しずつ増えてきていると言われていますが、まだまだといった感じです。ですから、政府はベンチャーキャピタルに対して税制優遇などのインセンティブを提供していかなければならないし、教育に関しても学生や研究者に冒険を恐れない教育をしていく必要があると思います。
また、新しいインキュベーター施設には技術移転の予算と共に、それを実施する場所確保の予算が必要です。そしてこれは助成金ではなく、未来経済への投資と考えるべきですし、ハイテクのIPOをもっと増やしていかなければならないと思います。
谷本:様々な課題を抱える日本の環境下、ひとり気を吐くOISTの強さはどこにあるのでしょうか。
グルース:第一に国際的な大学だということ。公用語は英語、そして研究者の50%以上は外国人と定めていて、現在は教員の65%、学生の80%が外国人で構成されています。
第二は、OISTが創立からわずか10年の間に目標を達成できた理由の一つでもあるのですが、世界中から採用した素晴らしい研究者たちに5年間の安定した研究資金を提供し、そこで最高レベルの研究を積み重ねた上で5年後に厳格な審査を行ない、今後の資金提供額を決定するという仕組みをつくっています。さらに、教員1人に最多でも8人の研究員という少人数グループを構築して、上下関係のないフラットな組織づくりをしています。
第三は学際性で、OISTでは学部にあたる研究科というものがありません。数学、教物理学、生物学の研究員や教員が肩を並べて一緒に仕事をすることで現場レベルでの情報共有を可能にするという利点があります。
第四は、研究員を若手のうちから独立させるということ。最近日本人の若手の研究者を数多く採用しましたが、日本特有の先輩・後輩意識に捕らわれることなく、独立性を確保して自由に研究をできる仕組づくりもしています。さらに、理研と協定を結んで、双方の教員が双方で教えることができるようにしたり、現在は琉球大学や東北大学、大阪大学などとも協働の下、科学をベースにしたコラボレーションを推進し、学外との共同研究に対しても特別な資金提供を行っています。