世界有数の大学院大学が考える、創造性を育む環境と「5つのC」

沖縄科学技術大学院大学 ピーター・グルース学長


谷本:今までのご自身の研究生活を振り返って、これからの若い研究者たちに伝えたい教訓は?

グルース:「Be curious」つまり好奇心を持つことです。アインシュタインも「私はただ情熱的に創造したり知的好奇心を持っているだけで、特にこれと言った特別な才能を持ち合わせているわけではない。そして人を喜ばせるためではなく、自分の情熱に従って研究することが大切」と言っています。

実は研究をする上で、「Be Creative(独創性)」「Be Curious(好奇心)」「Be Courageous(勇気)」「Be Critical(批判的であること)」「Complete(完成させること)」と言う「C」から始まる5つのキーワードがあるんですが、科学の歴史を振り返ってみると、1人の科学者が2〜3の著書や論文を通して研究発表をしていた18世紀から19世紀に比べると、現在の科学はチームワークにシフトを変えてきています。チームワークで自分の分担された部分の仕事を進め、論文を書き、発表するという手法がより顕著にあらわれてきています。



谷本:社会や国家による基礎研究支援の重要性についてはどのようにお考えですか?

グルース:日本を含めて、何故、国家や社会の基礎研究支援が大切なのか、その点について少し説明したいと思います。国家は未来への課題を予測して、その課題を解決するために基礎研究を支援するわけです。例えば、新型コロナウイルスのワクチンは一年未満で開発されましたが、これは以前ではあり得なかったことです。

なぜ可能になったかというと、それは未来のために準備をしてきたからなんです。基礎研究が基になって技術移転が起こり、その技術移転が基になって経済活性や成長が生れてくる。これを大企業からの資金提供で共同研究をするとその研究は基礎研究ではなく、一企業の利益を生み出すための研究に終わってしまいます。

国家政策という観点から見ても、財政投入による経済成長には限りがあるわけで、これからの社会や国家は起業家精神を育て、新しいアイディアやリスクを受け入れ、ベンチャーキャピタル、スタートアップ、IPO、さらにユニコーン企業になるような企業のIPOといったものに力を入れ、投資を推し進めることが重要視される時代が来ているのだと思います。

現在世界にある540のユニコーン企業の中で、日本は3位の経済大国であるにもかかわらず、たった4つのユニコーン企業しか輩出していない。つまり日本はやはり基礎研究にしっかりと投資をしていかなければならないということが明らかに示されていると思います。

谷本:では将来的にユニコーン企業を育て、輩出する可能性はどこにあるのか、あるいはどの研究にあるのでしょうか?

グルース:それはやはり大学での研究で、インキュベーターや技術移転、ベンチャーキャピタル、スタートアップといったものにもっと投資をしていかなければいけない。そして長期的な展望に立って投資をする必要があります。例えば、アインシュタインの相対性理論にしても、宇宙時代が到来してようやく正確なフライト計算ができるようになり、40から50年後にやっとその価値が評価されたわけです。

また、スタートアップ・若い企業・新しいものを生み出す志を持つ企業と、産業界との連携強化も重要です。アメリカでは新しい雇用の75%が起業から5年未満の企業によって生み出されていて、今は若い企業が新規雇用に貢献しているんです。現在、私たちは第4次産業革命の中に生きていて、ハイテクやインテリジェントロボットがこれからの労働構造を大きく変えていくわけです。既存の企業からの失業者に仕事を与え、雇用を作り出すためには今後ますます新しい若い企業との共同研究、そして基礎研究が重要になってくると思います。
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インタビュー・構成=谷本有香 文=賀陽輝代

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