世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

沖縄科学技術大学院大学 ピーター・グルース学長

進化する個人の働き方、変革を続ける企業、変化する個人と組織の関係性、この3者の交差点は、いまどこにあるだろうか。

Forbes JAPAN6月号(4月24日発売)では「新しい働き方・組織」論を特集。ビジネスとは異なる分野の専門家たちの取り組みや哲学から見えてくる、新しい時代の組織や働き方とは──。

高い割合で優れた研究論文を発表する世界の研究機関ランキング(ネイチャーインデックス)で、2019年に世界9位にランクインし注目を集めた、沖縄科学技術大学院大学(OIST)で学長を務めるピーター・グルース氏に聞いた。


谷本有香(以下、谷本):科学技術大学院大学のトップが経営に長けているだけでなく、著名な学者だということが、現在のOISTの功績に繋がっていると思います。ご自身のキャリアを含め、ご専門の分子生物学との関りについてお話しいただけますか?

ピーター・グルース(以下、グルース):私の研究の入り口は生物学なのですが、本当にワクワクするような科学との出会いは微生物学、ウイルス学、分子メカニズムを勉強するようになってからです。この分野の学問はいま分子生物学という領域になっていていますが、そのような学域の創生の60-80年代から研究に関わることができたのは本当にラッキーでした。

自分が楽しいと思える研究領域をキャリアの早い時期からみつけることはとても大切だと思いますし、私はいつも学生たちに「自分が情熱を持って追い続けることができる領域をみつけること」そして「それが可能な場所に行って研究すること」の重要性を伝えています。キャリアについては、ハイデルベルク大学で研究員を務めた後、アメリカに渡り、メリーランド州、ベセスダで分子ウイルス学の研鑽を積み、その後マックスプランクに入り、現在はOISTの学長を務めています。

谷本:これまで国を隔て、様々な研究所で研鑽を積まれていらっしゃいますが、ご自身の選択に対するパラメータやクリエイティビティの基準のようなものがあったのでしょうか?

グルース:選択にあたり、私にとっては「知的な環境」と「研究資金の確保」が絶対不可欠な条件でした。この二つの条件が整っていれば、新しい情報や知識を手に入れながら自由な研究に従事でき、あとは自分自身の創造性が問われるのみです。

研究者は、自分が持つ根本的な疑問に対する答えを見つけるための研究をしているかどうかを、常に自分に問い続けなければいけないと思っていますが、ウイルス学を勉強していく中で、一つの細胞から起きる一人の人間の進化や遺伝子制御の仕組みを解明していく過程で、これが根本的な社会の疑問などに答えるツールになるという確信が生れてきたのは確かです。理屈ではなく、自分の勘のようなものが今までウイルス研究に情熱を注いで取り組むことができた原動力だったと思います。

沖縄科学技術大学院大学 ピーター・グルース学長

谷本:科学者にとって必要な要素は何だと思いますか?

グルース:いうまでもないことですが、まずは「事実や数字を理解する」こと。そして、そのためには科学分野で使用されている言語の理解が必要となります。その後に来るのが「クリエイティビティ」ですが、音楽家の話に例えると、ブラームスやモーツァルトは自分が全く違う世界にいるようなトランス状態になったとき、自然に音が沸き上がり音楽が創り上げられていったと言っています。

つまり、一生懸命仕事をするのは必要ですけども、クリエイティビティには、次元を超えて自分を振り返る空間、自分を日常から隔離する時間が必要なのだと思います。仕事で移動や旅行などをしているときに、突然アイディアが生まれたという科学者の声を聞いたりしますが、自分の研究を別の角度から見直すことも必要なのだと思います。

インタビュー・構成=谷本有香 文=賀陽輝代

PICK UP

あなたにおすすめ