北野:その時に気がついたのは、模倣して作られたプロダクトと意志をもって作られたプロダクトは「魂の入り方が全く違う」ということです。そのため、結果的に我々がトップのシェアを一気に獲得できたのだと思います。守屋さんは、たくさんの企業の経営に並行して関わっていますが、すべてに意志があるのですか。
守屋:はい、意志を持っています。ただし、僕が自分で経営に関わり切れる数には限りがあります。独立したての頃は、ラクスルとケアプロの2社だけだったので同時進行で副社長として参画をさせてもらっていましたが、今はそれ以上のスタートアップに参画をしているため、どうしても深いコミットを保つことが難しくなってしまっています。だから、自分の「やりたいこと在庫」を貯めておいて、100%没頭して頑張れる意志を持った人との出会い待ちをしているんです。そのためか、出会った後の着火は早いですよ。
5分で出資を決めた「転んだ時だけ柔らかくなる」床
北野:最近はどんな事業に「着火」したのですか?
守屋:昨年、「Magic Shields(マジックシールズ)」というスタートアップに出会ったのですが、5分のピッチ一発で出資を決めさせてもらいました。ふだんは固い普通の床、でも転んだ時だけグニャっと柔らかくなるという『ドラえもん』の道具のような床、「ころやわ」という製品を開発した会社なんです。魔法のようですよね!
守屋:転倒する高齢者は年間で100万人ほどいます。そのうち大腿骨を骨折する方が、約25万人。大腿骨の骨折を経験した高齢者5人のうち2人は、1年後に1人で歩くことができなくなってしまいます。また、高齢者が要介護になる原因の第3位が「転倒による骨折」なのです。体が不自由になると、認知症が進んでしまうケースも多い。この状況は、本人にとっても家族にとっても、そして社会のとってもロスでしかありません。
実は僕の母も、元気に暮らしていたのですが、たった一回の転倒で腰が曲がってしまったのです。僕はそれがあまりに悔しかった。だから、「ころやわ」というサービスをやりきれる人と出会い、即決したのです。
北野:僕も、事業を作る際には、個人的なペイン(痛み)や悩みをどうしたら仕組みで解決できるかという視点を重視しています。たとえ、儲かりそうだなというサービスを思いついたとしても、一旦立ち止まって、「これは本当に僕がやりたいことなのかな? 自分が心から解決したいことなのかな?」と問うようにしています。
本作りも同じだと思います。例えば、20万部以上売れた『転職の思考法』(ダイヤモンド社刊)は、友人が勤務していた企業に「転職は裏切り者がすることだよ」と言われたことが着火点になっています。転職を検討する人に「裏切り者」という言葉を投げかける行為は、誰も幸せになりませんよね。その怒りみたいなものに突き動かされて、本を書きました。
守屋:事業も本作りも意志がないとよいものはできませんよね。全てのことにおいて、意志ある人が自身の人生を拓いていくのだと思います。
>>天才を応援する「共感の神」たれ。北野唯我とカリスマ起業家の信念」に続く