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2021.05.09

元森ビルCFOとJT副会長が考えた。読書で得る「自分軸」は出世の薬か、毒か

Photo by Roman Kraft on Unsplash


何千年という時間を超えてサバイブしている本を読むと、人間にとっての悩みや苦しみに対する対処法にも一定のパターンがあることがわかります。それらを単純になぞるべきというわけではありませんが、人類が蓄積してきたものを学び、先人の生き方を参考に、「自分ならどうするか」を考え抜いて、発想や行動を生み出すことが大切なのだと思います。

岩井:読書は「3つの対話」と言われています。まずは著者との対話です。その本が書かれた時代に入り込み、自分と著者とで対話をします。次に他者との対話。アスペンでは、古典のテキストを使って皆で対話します。最後に大切なのが、自己と対話することです。本を読んだ後に「自分がそこから一体何を得て、明日から何をするんだろうか」という対話をし、リーダーシップの発揮を目指しています。

堀内:私もアスペンに参加しましたが、実に多くの本を読みますよね。

岩井:最近はちょっと減らしましたが、エグゼクティブコースでは、抜粋ですが5日間で40冊近く読みます。

アスペンは世界中に10拠点ぐらいありますが、日本のアスペンにはとくに独自性があります。アカデミアの先生方を招き米国アスペンの西洋中心のテキストをベースに、東洋、日本も含めた独自のテキストを編纂しました。章建ては、日本と世界をつなげるような書物から入り、自然・生命、認識、美と信、ヒューマニティ、そして最後はデモクラシーで構成しています。資本主義はひとつもないのですが、最近は資本主義周りを深掘りするセミナーも生まれてきています。



堀内:モデレートは大学の先生だけではなく、岩井さんのようなノンアカデミアの方もされているのでしょうか?

岩井:ヤングセミナー(企業の部課長クラス)では、私のようなノンアカデミアもモデレートしています。たとえばですが『平家物語』「敦盛最期」で描かれる熊谷直実に重ねて、ビジネスにおける合理化、人員削減施策のように矛盾の中で決断しなければならないといった自分の体験に即した話もしたりします。ビジネスの世界、産業、実業のエリアにいる立場から、テキストから何を汲み取ったかということを念頭においてモデレートしています。

堀内:私には、大学の先生がビジネスパーソンに教えるという枠組みがどうもしっくりこないのです。たとえば、東大の先生たちは本当に感動するぐらいよくモノを知っています。しかし、大学の先生がビジネスパーソンに「教えてあげる」という上下関係の構図ができると、その先に全然進めないような気がするんですよ。もう最初から「枠組み」に絡み取られてしまっていて、全然、「鉄の檻」の外に出ていないなと。もっとお互いが水平的に学び合うような場でないと。

岩井:最近は、アスペンのヤングセミナーがわりといい感じなんですよ。アカデミアの先生はテキストを理解するための大切なリソースを与えてくれます。受講者たちにはそこから叡智を汲み取ってもらい、ビジネスの世界で生かして、活躍してもらうという図式です。アカデミアの先生からも、「へえ、ビジネスでは古典のテキストをこういう風に活用するんだ。勉強になります」と言っていただいています。
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文=上沼 祐樹 編集=石井節子

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