研究開発技術とビジネスをつなげ「死の谷」を超える2つの方法

科学技術立国を謳いつつも、研究開発の投資効率が低い日本。技術の実用化を促進させるための鍵はどこにあるのか。


日本の研究開発費総額は、OECD(経済協力開発機構)によれば世界第3位の規模を誇る。しかし、そこで生まれた技術がどれだけ社会に実装されているかという研究開発投資効率では、主要先進国のなかでも下位に甘んじているという事実をご存じだろうか。国宝ともいえる優れた研究開発技術の多くがお蔵入りしていることは不幸であり、この現状を打破しない限り、日本の研究開発は衰退していき、技術力で劣る国になってしまいかねない。
 
では、どうすればよいのか。我々はMakuake Incubation Studio(MIS)という企業の研究開発技術を活用した新商品のプロデュースサポート事業を展開している。年間で1000人を超える大企業内の研究開発者や新規事業の創出担当者と密にコミュニケーションをとっているのだが、そこでヒントを見いだすことができた。
 
まず課題として見えてきたのが、研究開発技術と実ビジネスの結びつきの弱さである。真面目な国民性もあり、日本人の研究に没頭する集中力は高く、レベルの高い研究をしている点では他国に勝るだろう。ただ、アカデミックな成果が美徳とされる場合も多く、なかなか実ビジネスにつなげられないという実態がある。ある程度ビジネスを気にせずに研究開発に集中するからこそ革新的な技術が生まれるという見方もあるため、ジレンマが起きる部分でもある。
 
この課題解決のひとつが、研究開発技術をビジネス価値に変換させることに特化した機能をもつことだ。例えば、マクアケには、技術の価値とマーケットの両方を深く理解しながら事業を生み出していく「R&Dプロデューサー」がおり、大企業の研究開発技術を活用した新商品プロデュースで実績がいくつも出てきた。シャープのプロジェクトでは、同社が液晶材料の研究開発で培った技術をもとに開発した蓄冷材料を活用し、雪がとけるような味わいで楽しめる蓄冷パック付きの日本酒「冬単衣」を共同で創出した。R&Dプロデューサーは、プロダクトデザイナーやクリエイティブディレクターといった人材の新たなキャリアステップ先となる可能性がある。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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