研究開発技術とビジネスをつなげ「死の谷」を超える2つの方法


もうひとつの課題が、たとえビジネスの企画ができたとしても、商品事業化するには大きな意思決定が伴うこと。優れた研究開発技術を生み出すほどの大企業となればなおさらだ。具体的なPoC(技術や商品特性がマーケットで価値をもつことの証明)がないなかで、巨額を投資する意思決定はリスクが大きい。試作品まではつくれても、事業化するまでの間には大きな谷(デスバレー)があり、結果として舞台に立てぬままお蔵入りへとつながるケースは少なくないのだ。
 
ここで必要になってくるのが、谷を埋めるためのリーンスタート(小さく生み出し大きく育てる)の手法を構築すること。だいぶ前にネットスタートアップの起業手法の文脈で流行した概念だが、大企業の研究開発技術の実用化ステップにおいても応用が利く。
 
注目に値する取り組みをしているのがNECだ。2018年に北米に設立したdotDataというAI技術に特化した社内ベンチャーをカーブアウトさせて、外部投資家を含め、累計4300万ドルの資金調達をするなどして子会社状態を外しつつも、日本国内で同社の技術の独占販売権を維持するなど、強いパイプラインを確保して競争力の創出に成功した。
 
このほかにも、自社の研究開発技術を中小企業やベンチャーに提供し、共同開発した新商品を小ロットで市場に先行販売してテストマーケティングをしたり、技術PRをしたりするやり方もある。これらに限らず、リーンスタートの手法はさまざまな角度から考案されていくことが、日本が技術大国として大きくプレゼンスを発揮していく鍵となるだろう。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

文=中山亮太郎 イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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