気候変動という大きな問題に対し、企業の役割とは何かを授業で取り上げてきたハーバードビジネススクール(HBS)教授のレベッカ・ヘンダーソンは、いまこそ産業界が公益性を目標にして、コロナ禍を変革のチャンスに変えるべきだと言う。
『資本主義の再構築―公正で持続可能な世界をどう実現するか』(日本経済新聞出版)を上梓した同教授に、企業はそのために何をすべきかを聞いた。
──環境ジャーナリストのお兄さんから勧められた本を契機に気候変動に危機感をもったそうですね。気候変動は、あなたの仕事とどのように関わっていますか。
気候変動は過去15年間、私の職業人生の中核を占めてきた。(このテーマは多くの研究者が取り組んできたが、)企業がどう行動すべきかを検討してきた学者は多くない。大学で学生らとこのテーマを議論するだけでなく、企業やNPO(非営利団体)と協働したりすることで、自分の価値観を仕事に反映させている。
肉を食べないことで畜産業による温室効果ガスの排出量削減に貢献し、飛行機の利用を最小限に抑えるなど、私生活でも配慮している。著書の売り上げは気候変動政策擁護団体に寄付するつもりだ。
──あなたが言う再構築とは何ですか。
企業が社会と一体になり、利益追求だけでなく、社会の繁栄や成功に貢献することだ。利益を上げながら公共問題を解決し、厚遇の仕事や良質の製品を提供することで、社会や環境の強化を目指す。企業が自分たちの役割について広範なビジョンをもち、政府や社会と協働し、大きな社会問題に取り組むことで、資本主義を再構築できる。
コロナ禍で企業の変化が加速
──2019年、米大手企業CEOら181社の「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主至上主義を見直し、全ステークホルダーを重視する方針を表明しました。また、あなたはコロナ禍で企業の意識や行動の変化が加速していると話していますね。
そうした傾向は続くと思う。コロナ禍が追い風になる。だが、気候変動や格差拡大の解消に向けて動いているのは、まだ企業の2~3割だ。企業が喫緊の問題だけでなく、公的問題にも取り組むためには大きな変革が必要であり、リスクが付きものだからだ。とはいえ、こうした傾向はグローバルなものだ。
特に日本型資本主義には、私が話しているような資本主義と相通じる部分が多い。1960年代から80年代初頭にかけて、日本企業は社会全体を視野に入れ、厚遇でやりがいのある仕事を提供していた。日本には気候変動に立ち向かう土壌と機運がある、というのが私の認識だ。
「ユニバーサルな機関投資家」である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者(CIO)だった水野弘道が好例だ。環境や社会、企業のガバナンスに配慮した「ESG投資」を普及させた。
──利益の最大化にとどまらず、株主至上主義ではない明快な「パーパス(目的)」を掲げ、共有価値を生み出す企業とは?
従来の企業は、賃上げやサプライチェーンの環境浄化はお金にならないため、一考の価値もないとみなす。だが、「目的志向」の企業は生産ラインに注力するのではなく、広遠な見方をする。
なぜ、社会問題の解決と利益を同時に目指す「共有価値の創造」が大切なのか。変化をもたらすことができるからだ。リプトンを傘下にもつ英食品・日用品大手ユニリーバは、売り上げ増と茶葉農園で働く労働者の賃上げ、茶葉生産に伴う環境破壊の改善を目指し、成果を上げた。