──利益と自社の目的・存在意義という「二重性」を実現し、成功するには?
創業理念に立ち返ることだ。幹部が小グループをつくり、何を成し遂げたいのかを話し合い、深遠な目的を探す。次に社会問題を解決しながら利益を上げる戦略を考える。そうすれば、自分たちの業界を違う視点から眺めることができ、消費者のニーズを特定し、他社が思いつかないユニークな製品を生み出せる。
また、従業員が生活賃金を保障され、尊厳を持って扱われ、創造性を解き放てるような職場を目指すことも大切だ。目的志向の組織づくりを指南した『Purpose Playbook(パーパス・プレイブック)』が役立つ(注:HBSのマイケル・ポーター教授とマーク・R・クラマー氏が共同で設立したコンサルティング会社、FSGの共有価値イニシアチブ「sharedvalue.org」でダウンロード可)。
幹部に加え、現場も目的にコミットできるかどうかが成功のカギだ。米産業機器メーカー大手バリー・ウェーミラーは、全従業員が「誰かの大切な子供」だという理念を貫き、チーム単位で誰もが仕事に深く関われるような体制を築いている。米医療用品大手ベクトン・ディッキンソンでは、重要なのは「患者の命に貢献すること」だという認識が浸透している。
──あなたは日本の大企業の経営陣の支配力について問題点を指摘していますね。
日本企業の取締役会は、(影響力を持つ社外取締役の不在で)独立している傾向があり、役員の地位が強固なため、リスクを冒してまで変革しようとしないのではと、懸念している。
──企業は、国家や非政府組織(NGO)などと、どのように連携すべきでしょう?
問題は、真の民主政治と強い市民社会によって自由市場の調和が保たれるよう、社会のバランスを取り戻すことだ。そのために、米産業界は地域社会や州・連邦レベルでNGO やNPOと協働し、教育や医療などの問題に取り組むべきだ。オハイオ州クリーブランドなどでは、すでにこうした連携が見られる。
──あなたの著書によると、個人が変化を起こすには、1)目的の発見、2)いま、行動する、3)仕事に自分の価値観を持ち込む、4)政府で働く、5)政治を動かす、6)自分を大切にして喜びを見つける、の6点が大切だそうですね。
何が最も大切かと聞かれたら、6番目と答える。怒りや疲れで自分の価値をないがしろにしていると、何かを始める力はわいてこない。2番目も重要だ。人は多忙などを言い訳に行動を先延ばしにしがちだからこそ、いま、何かをやることが大切なのだ。
『資本主義の再構築 公正で持続可能な世界をどう実現するか』 (日本経済新聞出版) 。世界を破壊する危機に直面している資本主義を創り直すための体系的な枠組みを提示。
レベッカ・ヘンダーソン◎ハーバード大学ジョン&ナッティ・マッカーサー・ユニバーシティ・プロフェッサー。ハーバードビジネススクールでも経営論、戦略論の教鞭を執る。NBERリサーチフェローなども務める。