──川崎さんが曲作りの軸にしていることは?
川崎:最近、子供が1歳になったんですよ。僕は音楽をやるにしてもやらないにしても、「子供にとって、カッコいい父ちゃんでいたい」っていうのがまず大前提である。誰かたった1人でもいい、その人にとってのヒーローになれれば、それでいいんです。
オリンピックで金メダルをとるとか、ミュージシャンとして武道館のステージに立つとか、それもすごくカッコいいことではありますよ。でも、たとえお客さんが3人でも5人でも、僕は本気でステージに立ち続けてきたし、そのお客さんにとっては僕がヒーローに見えていたかもしれない。僕はそういうことこそ大事にしたいし、それをずっと忘れないつもりでいる。
誰かにとってのヒーローであること、その人のために生き抜くこと、そういう意味で「戦士」と表現したつもりです。
僕自身も1人で曲をつくって、弾き語りして、歯を食いしばって踏ん張って、なんとか戦って、自分の夢とか願いとか希望とかを叶えられるように、一歩一歩進んできた。泥臭くてもいいしカッコ悪くてもいい。与えられた状況に「悲しい」「悔しい」って言ってるだけじゃなくて、必死になって前に進んだら、何か光が見えてくるんじゃないかな。
──スポーツを「止めない」、音楽を「止めない」というのは、具体的にどういうこと?
武井:アスリートが歩みを「止めて」しまうきっかけって、大事な大会の代表選にもれたり、試合に負けたり、ライバルに抜かれてしまったりしたときかなと。
でもね、僕は大会に出ていい成績をおさめられなかったら、果たして惨めな人生なんですかと問いたい。試合がなくなった、金メダルがとれなかった、思ったような結果が出せなかった──そんなことで、アスリートのみんなは、自分の人生を止めちゃっていいんですか。そうじゃないでしょって。
そこまでの努力やトレーニングの積み重ねって、決してそのフィールドでしか活かせないものなのかと。自分たちが積み重ねてきた力を使えば、フィールドの上じゃなくても、ピッチの上じゃなくても、どこだって輝きを放つことができる力があるんだから。
目標の結果に辿りつけなかったとしても、「価値ある自分」でいなければいけないし、そういう希望のある業界でなくちゃだめだと思う。勝者以外のアスリートに価値がないんだったら、そんな業界だめですよ。
ビジネスパーソンだって、例えば20年働いたら、その分の価値が積み上がるじゃないですか。スポーツ選手だって、勝負に負けて思った場所に辿り着けなくたって、そこまで積み重ねてきた価値はなくならないはずです。
それはミュージシャンも同じ。例えば、武道館や東京ドームでライブができなければ価値がないのかといったら、絶対そうじゃないよね。楽曲やファンの人たちに届けてきた思いにはもう十分価値がある。ライブハウスがなくなってライブができなくなったら、音楽って止まっちゃうんですか?いや、絶対違うでしょ。