──作品をつくるときに大切にしていることは?
広屋:これは時期によって変わってくるのですが、旗揚げしてからしばらくは、メンバーも役者も「会わない」でできる表現を追求していました。窮屈や不安を感じるなかでも、こんなエンターテインメントがつくれるんだというのを示したかったし、そのときの世の中の気分を描きたいという気持ちが大きかった。
小御門:「会わない」でつくりきれるのかという実験結果をなるべく見せたいという気持ちはあったよね。僕は「いま、ノーミーツで」やる意味があるかどうかを常に意識した作品作りをしてきたつもりです。
広屋:それを追求し続けた結果、演劇界以上に広告界のほうでACC TOKYO CREATIVITY AWARDS クリエイティブイノベーション部門 ゴールド賞をいただいたり、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で優秀賞をいただいたり、予想とは違う広がり方をしたなと思っていて、自分たちの作品がもつ可能性ってどこまで幅があるのかをずっと模索している部分はありますね。
林:僕も最初はオンライン演劇としてどれだけ面白いものがつくれるかに没頭していたんだけど、途中から、メンバーのとんがった思想とかアイデアをどれだけ抑えずに新しいものを形にできるかということを強く意識するようになったかも。
──ほかの「劇団」とノーミーツがもっとも違う部分はどこですか?
小御門:企画について話し合うときの「最初の会話」から違いますね。普通の劇団だったら「次に何をやりたい?」「物語の題材はどうする?」みたいな話から始めると思うんですけど、ノーミーツは必ず「どう仕掛ければ多くの人に広まるか」もセットで考えていきます。いいものをつくり続けていればいつか認められるよね、というスタンスではなくて、どう広げていくかまでを視野に入れたアイデアを出し合う感じ。
広屋:チーム構成も独特なんですよ。元々演劇界の住人だったのは、小御門(脚本・演出)や俳優陣、舞台監督など数人で、そのほかの配信や撮影を行うテクニカルディレクターやエンジニア、映像作家にコピーライターや宣伝広報担当などは、それぞれが他に本業を持って第一線で活躍しているメンバーがジョインしてくれているんです。
だから、公演の最初のアイデアが物語や脚本の内容ではなくて、「この技術を使いたい」だったり、「このやり方を試したい」だったり、撮影技術や配信方法、システムなんかの話が先にでてきたりすることが多いのが特徴かもしれません。
林:『それでも笑えれば』のときに、テクニカルチームから「選択式」の演劇をやりたいっていう話が出たときは驚いたよね。視聴者の多数決で物語の結末が分岐していくような見せ方かなと思ったら、視聴者1人1人それぞれの選択によって、分岐した違うシーンと結末を見せるような技術提案が上がってきた。しかもライブ配信で!
これはテクニカルメンバーがいなければ、発想すらできなかったことですし、その技術もやってみないとわからないレベルではあったんですが、やれてしまった。
プロデューサーだけではなくて、テクニカルメンバーや宣伝広報までもがごった煮でブレストするからこそ、新しいアイデアが次々実現できる。テクニカルな実験を演劇という物語の中にどう落とし込んでいくか。こうした普通の演劇や映画のつくり方ではない化学反応が頻発するのが、めちゃくちゃ面白いんです。
企画・プロデュースを担当する林健太郎。1993年生まれ。現在も映画制作会社に勤務するプロデューサーとしての顔も持つ