演劇のまちづくりで揺れる? 志願者約8倍、豊岡「専門職大学」学長に聞く

「豊岡演劇祭2020」で。『バッコスの信女—ホルスタインの雌』(撮影:igaki photo studio)


鷲尾:コロナの影響が出る前まで、インバウンド市場は伸びて、大きな経済的成果も生んできました。

平田:あれは安倍政権の手柄のように言われているけれど、民主党政権時代から積み上げられてきたことなんです。もちろん、観光業界の努力もある。それに外的な要因としては、円安、東アジア圏の経済発展。所得が300~400万円を超えると、みんな海外旅行したくなる。韓国、中国、東南アジアの中間層からすれば、日本は近くで安全で、安いですからね。

鷲尾:コロナ収束に関して未だ先は見えませんが、それでもコロナ後の社会を考えた場合、インバウンド政策も再考せざるを得ません。日本にとっての「文化観光」とはなにか? どんな質を持ったものなのかを再考する機会だと思います。


滞在アーティストによる制作風景。「城崎国際アートセンター」で。(写真:鷲尾和彦)

平田:まさにそう思いますね。コロナ後は、もう一回日本に来てもらわなくてはならない。もう一回、日本を選んでもらわないといけない。その時に、富士山を何度も見たいという人はあまりいないですよね。そうすると、食、スポーツなども含めた広い意味での「文化観光」が確実に必要になる。

特に日本が弱いのは、ナイトカルチャー、ナイトツーリズムといわれる夜の時間帯の文化観光です。宿泊や食事まで含めると、昼と夜では、使うお金の金額が全然違ってきます。どうすれば滞留時間、滞在時間、宿泊数を伸ばすことができるのか。それらを長くすれば、落とす金が倍々になっていくことがわかっている。

しかしその時には、夜の文化芸術的体験がどうしても必須になっていく。そういう経済的な波及効果をも含めて、一層「文化観光」という発想が非常に重要になってくると思います。

これまでも「文化観光」というジャンルはありました。そのための政策論も存在しています。しかし、この2つの分野を一緒に、しかも実践的に学べる大学はなかったんです。この点において、日本は韓国をはじめとするアジア諸国からも大きく遅れています。

大事なのは「休日分散化」。閑散期にこそ芸術祭を


鷲尾:そもそも「文化観光」は、ただ量的拡大だけを評価の指標として追求しても、オーバーツーリズムのような状況がうまれ、むしろ体験価値を低下させることも起こりうる。つまり、工業製品とは違うものです。むしろ、今後は、滞在の質、そして「時間」の持つ価値が大切になるように思います。

平田:それともうひとつ大切なのは、広い意味での「休日分散化」という発想ですね。日本の旅行産業はシーズンに特化してマーケティングを考えてきました。GW、お盆、正月に大量に人が移動する。逆に言えば、そこでしか人は移動しないわけです。

サービスの質向上に努力しなくてもこの期間だけはどこの観光地や宿泊施設も確実に満員になる。経営努力をしなくても人が来るのでビジネスになるわけです。しかしそれでは通年を通した雇用機会は生まれません。またそのため、良い人材を確保することもできなくなってしまう。

「文化観光」は季節性に左右されません。むしろ閑散期にアートフェスティバルの開催時期を当ててもいい。例えば、昨年の「豊岡演劇祭」では、9月の閑散期に実施しましたが、コロナで集客人数を半分に制限しても、延べ5000人、5000泊になりました。これは、豊岡市の年間0.5%分を押し上げる結果です。9月だけに限ると10%。これは大きな波及効果を生みますね。通年集客にしていくことで、さらに経済的な効果も、また良い人材も確保することも可能になります。
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文=鷲尾和彦

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