演劇のまちづくりで揺れる? 志願者約8倍、豊岡「専門職大学」学長に聞く

「豊岡演劇祭2020」で。『バッコスの信女—ホルスタインの雌』(撮影:igaki photo studio)


鷲尾:平田さんは、地方創生のためには「面白いまちをつくることが大切だ」をおしゃってきました。10代で街を出ていった若者たちが、なぜ戻ってこないのか。雇用がないからというけれど本当はそうではない。本当の理由は、街が面白くないから。だから選ばれないのだ、と。雇用はたしかに必要条件だが十分条件ではないのだ、と。(※2)

平田:日本のUターン政策、IターンやJターン政策というのは、端的に言えば「高卒男子を囲い込む政策」であったわけです。公共事業をどんどんばら撒くことによって、ある種、強制的に地方を豊かにしていく。いわば「昭和の政策」ですよね。確かに出稼ぎ集団就職のような状況を無くしていったことは凄いことだと思うんです。しかし、その成功体験にすがり付いてしまい、時代の変化を見誤ってしまったのではないか。

人口減少という状況を生み出しているのは、実はもっと内面の問題なんです。特に子どもたちや女性がその町で暮らしたいと思うかどうかであり、雇用のせいにするのは男の目線だと思います。実際、人口減少傾向が進み、どこの地方でも人手が足りないくらいです。雇用がないからではなく、つまらないから故郷に戻ってこないのです。

18歳で地方から東京などの都市部に出た若者たちは、最低数年間、都市で経験した「楽しい生活」の記憶を持っているわけですよね。それなのに「帰ってこい、生まれ故郷なんだから」と言ってきたのがこれまでの政策だった。若者の内面性のことを、政策立案者はあまり考えてこなかったと思うんです。


2014年に開館したアーティスト・イン・レジデンス施設「城崎国際アートセンター」(写真:城崎国際アートセンター)

そして決定的だったのは、特に90年代以降、女子の4年生大学への進学率が急速に上がったことです。こうしたことを全く考慮せずに、平成の30年間も同じような政策を続けてしまった。

若者たちには住む町を選ぶ権利があるし、町も若者たちや女性たちから選ばれないと生き残っていくことはできないわけです。
豊岡市はジェンダーギャップの解消を政策の優先事項として掲げてきました。他にも今そのことに気づいている自治体が少しずつ増えているように思います。

(※2)参照:『CITY BY ALL ~生きる場所をともにつくる』(⽣活総研「⽣活圏2050」プロジェクトレポート)。

劇作家なのに観光政策に詳しくなった


鷲尾:芸術文化観光専門職大学は、「芸術文化」と「観光」をともに学ぶことができる大学ですね。文化と経済の、いわばダブルメジャーです。そのカリキュラムの狙いはいつ頃から考えていらっしゃったのでしょうか。

平田:2009年に、国土交通省成長戦略会議の「観光」分野の分科会の座長を務めることになったんですね。民主党政権時代です。座長とかになると、ものすごく大量のブリーフィングを様々な方々から受けるんですよね。当時日本の観光政策についてものすごく勉強して詳しくなりました。例えば、星野リゾートの星野佳路CEOなど、観光業界の方からも多くを学びました。

日本にとって、また地域にとって、今後「文化観光」が切り札になるということはその時から気づいていました。劇作家なのに観光政策に詳しいって、他にはあまりいないでしょうね。
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文=鷲尾和彦

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