自分でやってみる「セルフX」に隠された、柔軟に時代をわたり歩くヒント

世界中で感染拡大がつづく新型コロナウイルス。自宅で仕事をするライフスタイルがすっかり定着した人も多いのではないだろうか。

日常生活では、「ニューノーマル」という新しい生活様式は仕事以外のところにも及んでいる。料理頻度が多くなったことはもちろん、散髪やネイルなど身だしなみを整えることを自分で行ったり、材料を買って自分で家具をつくるDIYなどを実践する人が増えた。プロと比べたら下手だが、自分で創意工夫をしながら楽しむ「セルフX」は、個々人の生き方にも柔軟性を与えてくれるだろう。


コロナ禍の失われた春が過ぎ、夏、秋、そして寒さの厳しい冬が始まりました。Withコロナ、ニューノーマルといったフレーズを山ほど耳にするいま、日常無意識のうちに変化した行動もあるように感じます。そのひとつが、お店でサービスとして提供してもらっていたことを「自分でやってみる」方が増えているという兆しです。今回、私はその動きを「セルフX」と名付けてみました。

もちろんお店の提供するサービスのレベルには及ばないけれど、自分でやってみた結果ちょっと「ほくほく」うれしそうな人が増えている気がします。お店には「安心感」「クオリティ」を求めるのに対し、セルフXで求めているのは「達成感」「創意工夫の楽しみ」。両者で求めることは異なるため、お店とセルフXは競合ではなく、タイミングに応じて使い分ける柔軟なスタイルがニューノーマルになりそう。

最初のクオリティはだいたいお店の6割くらい。でも、やってみたらなんか意外と悪くない。出来よりも達成感やアレンジの楽しみを感じられたことで満足できる方も多い模様。この、自分でやることでハードルを下げて満たされる「6割満足」の風潮も、面白いなと感じます。

例えば、セルフネイル製品の急増。セルフネイルをする人はもう何年も前から一定数いました。が、最近目を見張るのはそのための製品のバリエーション急増ぶり。より手軽に、特に手先が器用な方でなくても簡単に見栄えよく仕上げられる製品が増えているセルフネイル界隈は「セルフX」の最先端。

また、おうち時間が長いがゆえに行き詰まったという声の多かった、献立問題。「セルフパンづくり」が食卓に華を添え、息抜きにもなってハマったという話も聞きました。この分野も、やはり提供側のブランディング・成功が目覚ましいのでご紹介します。

「cotta」や「富澤商店」というお店をご存じでしょうか? どちらも製菓材料や器具を豊富に揃え、根強いファンを生んでいるお店ですが、オンライン展開も素晴らしく、このコロナ禍にも売り上げは非常に好調。製菓材料がずらっと並ぶ店舗は圧巻でそこならではの価値が十分にあるのですが、2020年の状況変化も巧みに対応できていた好例です。

さらに、子育て世帯を中心にSNS投稿で目立つのが「セルフ博物館」。寝室の天井に緻密な星座を映し出すセルフプラネタリウムが可能なおもちゃも比較的お求めやすい価格で発売されて、好評のため進化を繰り返しています。

また、100円均一やネットショップ、スーパーで簡単に手に入るものを使った、凝った「おうち遊び」もママ層に大人気。特にInstagramでは「#おうち遊び」のハッシュタグは7万件を優に超える投稿がなされて、日々家でも手軽にできる、子どもの好奇心を育めるような遊びが紹介されており、コロナ禍の一ブームでした。
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文=山田 茜 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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