ミスチルを育てた男の「終わりなき旅」小林武史の理想郷づくり20年

音楽プロデューサー 小林武史


世論を分断させるのではなく、現実的な解決方法を探るべきだ、と小林は強調する。その姿勢は、保守層からどれほど非難されても非戦を貫き、ひたすら歌で世界平和の実現を希求したジョン・レノンに似ているようでもある。

資本主義の申し子でありつつ、妻とともに反体制のレッテルを辞さなかったレノンだが、小林にとってこの社会は「エコ」対「反エコ」、「革新」対「保守」などに対置分断できるものではない。二律背反で捉えるよりも、共に成長する道を模索する。多くの才能を見いだし、共に歩むプロデューサーならではの中庸感覚だろう。小林の思いは、こんな言葉にも表れている。

「音楽には、分断の間に入っていける力がある。同じように、僕はエコシステムのなかで、分断ではない『つながり』をつくろうと思っているんです」

小林の夢の結実はまだ先だという。

「クルックフィールズの完成度はまだ6割程度。新規施設の建設予定もあり、2022年春ごろのグランドオープンを目指して計画を進めています」

農業を中心とした未来づくりを志向する小林は、よりよい未来に投資を続けるホワイトナイトであり、その見返りを求めない姿勢は、いわば「理念のタニマチ」だろう。

小林はクルックフィールズを、時とともにかたちを変える「運動体」だと表現した。

「僕は運動家?」と笑うが、型破りな発想や行動は、学者やアーティストの生命線だ。そうすることでしか、膠こう着ちゃくした現状に風穴を開けることはできないと知っているのかもしれない。

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「獣害」とされ捕獲された猪や鹿を、場内でシャルキュティエが加工し、ジビエ料理として提供


小林武史◎1959年生まれ。90年代にMr.Children、My Little Loverのプロデュース、サザンオールスターズの楽曲アレンジや岩井俊二監督の映像作品のサントラなどを手がけ、数々の名曲を生み出す。2003年にap bank、05年にKURKKU、10年に農業法人「耕す」設立。19年にKURKKU FIELDS開業、同総合プロデューサー。

文=武田頼政 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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