「Paris 2024は、すべての人に開かれた大会に」はどう体現されるのか?

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他の観点では、Paris 2024は世界中の多くの人々にとって身近に感じられる大会とすることを目指している。先述のとおり、様々な競技で世界中の人々が実際の選手と競える仕組みを検討しているところだ。ファンや市民に対し、このような五輪の新たな楽しみ方を提供することで、スポンサー企業等関係者に対しても五輪への新たな関わり方を提供できると考えている。


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──COVID-19の感染拡大は、大会準備にどのような影響をもたらしているでしょうか。

現時点でロードマップを見直すほどの影響は生じていない。一般的に、五輪開催で準備に影響が出るのは施設建設だが、Paris 2024では招致段階から一貫して新たな施設を作る計画を最小限にしていた。コロナ禍ではその計画が功を奏していると言えるだろう。

ただし、スポンサー確保については影響が生じている。2020年夏以降の4年間はParis 2024にスポットライトが当たる想定であったが、Tokyo 2020が1年延期されたことによりその期間が1年分失われたことは痛手である。

もともとは1ビリオンユーロのスポンサー収入を目指していたが、現時点での達成状況は半分程度に留まっている。もともとTokyo 2020と比較してスポンサー確保のペースは遅かったが、いうまでもなくCOVID-19は企業の財政にも影響を及ぼしているため、従来と同水準のスポンサー費を支払える企業を探すことは難しいと言えるだろう。

五輪開催に関する世論は、2020年末時点で86%が大会開催を支持しており、前向きな結果と捉えられる。ただし、歴史的に経済危機は後に社会危機に結び付くことが多いため、今後の情勢は観察が必要になるだろう。


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──近年の五輪では、ブレイクダンス、サーフィン等若い世代を対象にした競技の採用が進んでいます。この機会を活かし、フランス国内の競技連盟はどのようなアクションを実行しているのでしょうか。

COVID-19の影響により、残念ながら競技連盟によるアクティベーション活動は沈静化している。ただし、サーフィンについては、フランス領ポリネシアで行われることが注目を集めている。フランス本土から地理的に離れていることもあり、フランス国民の注目を浴びない地域だが、サーフィン競技開催を通じてポリネシアに対する再注目や住民間の連帯感が生まれている。

また、Paris 2024を機に今後のサーフィン大会招致にも繋がることが期待されており、ポリネシア地域の経済・社会活性化に繋がる可能性もある。このようなサーフィンの事例は、Paris 2024が目指すソーシャルイノベーションを体現する取組みになると言えるだろう。


五輪招致を気運としてフランスのスポーツ産業は、持続的なスポーツ産業の構築を目指している。

これまでインタビューを行った国々では、今後の産業成長に向けてテクノロジーやデータ活用への期待の高さが目立ったが、フランスではサステナビリティやソーシャルイノベーションに注目しているのが印象的だ。

これまでスポーツ産業では目立った取組みが少ない領域だが、Paris 2024をきっかけとして注目を浴びるのかもしれない。

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Eloi Pomé◎PwC Franceマネージャー。スポーツ&メガイベント領域を担当し、プロスポーツクラブ、競技連盟、大会組織委員会等に対し、戦略策定やトランスフォーメーションに関する支援を提供する。Sciences Po Toulouse卒。
菅原政規◎PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー。2005年より現職。中央省庁等の公共機関に対するコンサルティングに携わり、調査、業務改善、情報システムに至る案件を多く手がける。近年は、スポーツ政策及びスポーツ関連企業・団体向けのコンサルティングを実施。PwCが毎年発行する「PwCスポーツ産業調査」の日本版監修責任者。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。
安西浩隆◎PwCコンサルティング合同会社シニアアソシエイト。2017年より現職。University of California, Berkeley卒。在学中はUC Berkeleyアスレティックデパートメントにてセールスやマーケティングの施策立案・実行に携わった他、スポーツ庁にて日本版NCAA(現UNIVAS)に関するインターンシップに従事。PwC入社以降は複数のスポーツ案件に従事するとともに、海外PwCスポーツビジネスアドバイザリーとの連携に務める。
寺尾慎吾◎PwCコンサルティング合同会社アソシエイト。2019年より現職。ニューヨーク大学大学院にてスポーツ経営学修士号取得。在学中はスポーツ団体に対する施策立案を実施し、マイナーリーグ球団でのインターンシップにも従事。PwC入社以降はスポーツ団体や官公庁の案件に従事。

文=菅原政規、安西浩隆、寺尾慎吾

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