──「PwCスポーツ産業調査2020」では、COVID-19の影響を受けてスポーツ組織同士が「協働」することについて期待する声があがっていました。そのような事例は実際に発生していますか。
執筆時点では、ステークホルダー内での協働が広く推進するものと予測していた。具体的には、異なる競技のリーグ同士、あるいは一つのリーグに加盟するクラブ間において、シェアドサービス導入や権利の統合パッケージ化等が普及することを予測していた。
現時点でこのような協働事例の件数は多くないが、これは導入までの障壁の高さが要因であると推測されるため、中長期的には普及するものと考えている。競技連盟やリーグ等、統括する立場にある組織が、協働により得られるシナジーを理解し、実現に移すための議論を主導する必要がある。
オンラインインタビューに答えたPwC SwitzerlandのDavid Dellea
──調査では、スポーツ組織と外部団体との協働についても期待の声があがっていました。
COVID-19の感染拡大以降、今日までにスポーツ組織が取り組む最も顕著な協働は投資家との協働である。スポーツ組織が外部資金の調達に大きなニーズを抱えることは言うまでもないが、それに加えて新規事業リスクの分担相手を探している。
他方、金融機関、民間企業、代理店等の外部団体は常に投資先を探しており、両者のニーズが合致したことにより協働が増えている。
民間企業や代理店、投資家たちが投資先としてスポーツ組織に注目することは、COVID-19感染拡大前から見られていたが、スポーツ組織による外部資金へのニーズ高まりを踏まえて、さらに加速化していると言えるだろう。
代理店や民間企業は、テクノロジー関連のソリューションを増やし、スポーツ組織に対しパッケージソリューションを提供しようとしている。従来までは、サプライヤーとしてスポーツ組織に提供していたサービスを、共同事業者として一歩踏み込んだサービスとして提供するケースが増えている。
例えば国際バレーボール連盟は投資家との協働によりVolleyball Worldを設立して、競技の普及やデジタル面の強化を目指している。国際卓球連盟も同様の動きを見せており、このような協働は今後さらに加速するだろう。
このような協働において重要な論点は、関係者間の責任分担である。新規事業リスクの分担やそれに紐づく収益の分配等に関する議論は、現在欧州のスポーツ産業で数多く発生している。
──このようなスポーツ産業以外の団体との協働が増えたことについて、COVID-19の感染拡大以外に考えられる要因はあるでしょうか。
数年前までスポーツ産業ではあらゆる事業を内製化し、代理店から独立する動きが主流だったが、現在は協働による相乗効果が内製化の費用対効果を上回ると考える組織が増えており、風向きが転換している。
多くのスポーツ組織が、組織の発展には新規事業が不可欠であること、そのような新規事業の推進にあたっては外部の知見取り入れやリスクを分担することが重要であると考えている。このような考えの源流には、新規事業に不可欠なテクノロジーが日進月歩に発展していることも寄与しているだろう。
スポーツ組織の内製化のみでテクノロジーの進歩に追いつくことは困難であること、そして外部団体との協働による効果の大きさを実感したスポーツ組織が多いことと推測する。