校則を見直し生き抜く力を育てる カタリバが20年間実践してきたこと

カタリバ代表 今村久美さん


2000人をオンラインで繋いだ「防災と命の授業」


東日本大震災から10年を迎えた今年の3月11日、カタリバは、全国の小中高校や自宅にいる子どもたち2000人をオンラインでつなぎ、「防災と命の授業」を企画した。

「防災と命について考えることは、実は『校則』の見直しとも切り離せないのです。なぜこの避難経路が設定されているのか、なぜこの制服を着なければいけないのか。日常的に当たり前を疑い、対話を通して前向きに改善を重ねることができれば、教育はもっと良くなる。子どもたちの命を守ることもできると考えています」(今村さん)

授業の講師には、東日本大震災により大きな犠牲を生んだ旧大川小学校(宮城県石巻市)の伝承に携わる佐藤敏郎さんを招聘した。佐藤さんは女川第一中学校元教諭で、カタリバの運営する女川町コラボ・スクール女川向学館のアドバイザーも務めているが、自身も旧大川小学校を襲った津波で当時12歳の娘を亡くしている。


女川第一中学校元教諭・佐藤敏郎さんによる防災と命の授業

旧大川小学校の校庭と全国の学校をライブでつなぎ、あの時何が起こったのか、あの時からどんな歩みがあったのか、そして私たちにはなにができるのかを佐藤さんが全国2000人の子どもたちに語りかけた。

東日本大震災の際、大川小学校の子どもたちは校庭に50分間待機した。学校に校長が不在のなか、裏山に逃げる判断ができず校庭にとどまった。津波に襲われ、全校生徒の7割にあたる74名の児童と10名の教職員が死亡あるいは行方不明となった。

「佐藤敏郎さんは、大川小学校で起こったことは、日本の学校の職員室や社会の縮図ではないかといつも話されています。私も本当にそう思うのです。

リーダーの指示に疑問を持たずに従うことや、決まりだから守ることだけが常に良い判断だとは限りません。1人1人が、その時の状況を踏まえて判断する力があるだろうか、もし決まりがあったとしても、おかしいと思ったら当たり前を問い直す風土が、いまの日本にあるだろうかと」(今村さん)

そしてそのことは、「学校の安全」だけでなく、「教職免許のあり方」にも関連していると今村さんは続ける。

「2000年度に最高値13.3倍だった小学校教員の採用倍率は、2020年度には過去最低の2.7倍になりました。これからは、ただ持ち前の能力が高い人を採用するだけでなく、育成やチームとしての総合力の向上も考えなければなりません。フォーマットやルールより、自分の頭で考えられることがはるかに重要なのです。

例えば校則も、問題が起こらないように禁止事項を増やすだけでは思考停止に陥ります。子どもたちを取り巻く状況は常に変化していますから、なぜそのことが問題なのか、改善するにはどうするべきかをその都度話し合い、考え、アンラーニングしていく必要があります」

カタリバのスタッフは「良くも悪くも有資格者が少ない」と今村さんは言うが、そのことも対話の風土を生み出す1つの要因になったようだ。

前例を知らないことで、スタッフは型にはめずに目の前の子どもたちをしっかりと見ることができる。昨今は専門性を持った有資格者も増えているが、状況を見ながら「対話して考える」を繰り返す。そして、みんなでより良い方法を考え、やってみる。カタリバはこの姿勢をベースに20年間突き進んできた。


カタリバのスタッフのみなさん

「1人1人がアマチュアでも、風土として対話と目標の設定があれば、未知の状況に置かれても対応できるようになります。採用倍率が激減しているこれからの教員にも、このような考え方が必要なのかもしれません」
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文=太田美由紀

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