校則を見直し生き抜く力を育てる カタリバが20年間実践してきたこと

カタリバ代表 今村久美さん


一度決まったルールは個人の意思だけで変えることは難しい。しかし、校則の見直しにチームで取り組み、具体的な事例を示し、考え方が異なる人とも対話を重ねることで変えることができたという体験は、生徒たちにとっても自信につながるだろう。

「2022年から高校で『公共』という教科が新設されますが、校則の見直しは、その教科にもつながる取り組みです。学校という公共空間で、自分たちの権利を取り戻すためにできることは、『ブラック校則反対』と言って怒るだけではなく、先生たちは何を考えているのか、生徒は何を思っているのかを互いに持ち寄り、対話を取り戻していくことだと思います。

カタリバは、これまで『変えることは難しい』とされてきたことについて、どこをどうすれば変わるのかを実践してみて、『こんなやり方がある』と事例を示す役割を担っていると思っています。事例があれば、根拠になります。対話をすれば、わかりあえなくても、社会は少し前に動く。団体を立ち上げて20年、時間はかかりましたが、このような考えがゆっくりと確実に広がってきた手応えを感じています」(今村さん)

全国1300以上の学校で出張授業を


カタリバは、設立時の2001年から自治体や学校と連携し、子どもたちの意欲や創造性を高める学びの環境を整えるための実践を1つ1つ積み上げてきた。

互いを尊重して対話を繰り返し、課題発⾒、合意形成、意思決定をする⼒を高めることで、より良い関係性をつくる──。カタリバが提示してきたこの姿勢は、社会に出て就くどんな仕事においても、多様化する未来において幸せに生きていくためにも、必要不可欠な力だ。

そもそもカタリバのスタートは、高校生を対象とした「出張授業カタリ場」だった。大学生のボランティアスタッフが中心となり、高校生と本音で語り合う。少し年上の「お兄さん」や「お姉さん」である大学生との対話を通して、高校生たちは自分の価値観を明らかにし、新たな自分を発見できる。これまでに全国1300以上の学校、約22万人の生徒たちに対話型の出張授業を届けてきた。


出張授業カタリ場のようす

「最初にカタリバを立ち上げたとき、学校の先生よりも自分たちのような大学生や若者のほうが高校生の思いに寄り添うことができ、よりよい体験の場を提供できるはずだと思い込んでいたんです。でも、そのスタンスでは、これまで、さまざまな苦労の中で現場を守ってきた既存の教育現場には、相手にされません。学校から受け入れられるようになるまでに時間がかかってしまった。

そうした経験から、学校や教員が悪いと指摘して対立するのではなく、どのように参画すれば学校側が受け入れたいと思うかを考える必要があることに気づきました。

また、出張授業カタリ場は、一時的な交流ですが、日常的に子どもたちに関わることも重要です。大きな転機となったのは、2011年の東日本大震災でした」

カタリバが自治体と連携し、その地にずっと生活してきた人々と一緒に、日常に寄り添いながら、長期的に子どもたちに関わる場が増えてきたのは、東日本大震災をきっかけにスタートした被災地の放課後学校「コラボ・スクール」(宮城県女川町、岩手県大槌町)以降のことだった。


コラボ・スクールのようす

思春期世代の居場所「文京区青少年プラザb-lab」(東京都文京区)、不登校支援の「おんせんキャンパス」(島根県雲南市)、子どもの貧困対策として心の安全基地となる放課後施設など、いくつもの自治体からカタリバに声がかかるようになった。
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文=太田美由紀

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