スウェーデン大使館のペールエリック・ヘーグべリ大使によれば、ストックホルムには世界中からスタートアップ企業や起業家が集まる様々な魅力があるという。
「第1に、職場環境の良さがある。オフィスには平等性や多様性があり、フラットな企業体制ゆえに自分の意見に耳を傾けてもらいやすいため、仕事への情熱や、やりがいが出る。さらに、ワークライフバランスも取りやすい。第2に、美しい自然が身近にあり、優れた文化や食のカルチャーがあることで人生を心豊かに過ごすことができる。第3に、新しいことを受け入れやすい価値観があり、最新テクノロジーの導入が早い」
このような環境は、破壊的なアイディアが生まれやすいと考えられる。
駐日スウェーデン大使 ペールエリック・ヘーグベリ
欧州のスタートアップ事情に精通しているEDGE of INNOVATION 代表の小田嶋 Alex 太輔氏によると、「スウェーデンは日本進出に積極的な国の一つ。昨年には、北欧5カ国連合でNordic Innovation House Tokyoという進出拠点も開設され、Business Swedenを始めとした政府機関が日本展開を後押ししている」という。
筆者も親交の深い日本語が堪能なコミュニティディレクターのNiklas Karvonen氏も、活発に北欧と日本を繋ぐオンラインイベントを開催している。また、2018年の国王来日の際には、小田嶋氏が運営するスタートアップ拠点 EDGE of 渋谷を訪問され、日本のスタートアップと交流の機会を設けるなど、国をあげてイノベーションの促進に力を入れていることが伺える。
スウェーデンからイノベーションが生まれる7つのファクター
では、スウェーデンは一体どのようにイノベーション創出を促進してきたのか。スウェーデンでスタートアップ起業経験があり、現地のエコシステムに精通した小林麻紀氏をはじめ、教育者、投資家、上場経験者など関係者に話を聞くことができた。
1.農業中心の国からの脱却
IKEAのInnovation & Co-CreationのディレクターCindy Soo氏は言う。
「スウェーデンは1800年代半ばに義務教育の導入により教育レベルが向上したことで農業中心の国から発展し、起業家文化の礎となった。そもそもスウェーデンの土壌は決して豊かでなく、1800年代には何度も不作に見舞われ飢饉が発生。当時はヨーロッパの中で最も貧しい国の一つであり、北米に大量の移民を出していた。しかし、飢饉の後に産業革命が起こり、森林からの原料や鉄鉱石、穀物などが必要になった。このニーズに呼応し企業が設立され、輸出用の加工品が作られるようになり、輸出増加に伴って熟練した労働力が必要となったため、急速な都市化が進み、研究・開発・エンジニアリングを中心とした教育に力が注がれた」
輸出収入に大きく依存していたスウェーデンでは、企業や投資家がグローバルな視点で考え、国境を越えた事業展開をする必要とされていたのだ。
現在、社会福祉やデザイン分野で有名なスウェーデンは、世界的な科学技術大国・工業立国としても知られている。医学系大学で世界第5位のカロリンスカ研究所や、北欧最古の大学であるウプラサ大学などアカデミアが充実し、古くはノーベル賞の生みの親でダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルや、植物分類学の父カール・リンネなど、優れた発明家や科学者を輩出してきた。