この200年以上戦争をしていないスウェーデンは、戦争に参加したヨーロッパ諸国に比べて経済発展においてはスタートが早かった。そのうえ、工業大国として競争力のある産業の裾野が広いことが、フィンテック、ディープテック、ライフサイエンスやE-コマースに至るまで、幅広いカテゴリーのスタートアップを育む土壌となった。
国民の英語力も高いため、優秀な外国人を移民として受け入れやすいこと、そして人口が1000万人足らずと東京都の人口にも満たず国内市場が小さいことから、スタートアップは設立時から海外展開を目指し、グローバル標準でのプロダクト開発を進める事が多い。さらに、成功した企業、創業者、従業員が地元に留まることで、文化、資金、ノウハウに地元のエコシステムがアクセスでき、その価値やリソースプールを利用することで、成功から成功を生み出している。
首都ストックホルムを中心に大型都市が近接する。
2. 苦境から生まれたイノベーションエコシステム
他の北欧諸国を見ると、ノルウェーには素晴らしい天然資源があり、フィンランドには巨大企業Nokiaがあり、デンマークにはLegoとMaerskがあり、合わせてGDPの40%近くを占めているが、スウェーデンにはそのような支配的なプレーヤーはいなかった。また、給与税が非常に高いため、雇用されていては裕福はなれないし、1年のうち6カ月は暗くて寒い冬のため家の中で過ごす環境にある。
しかし、これらの苦境をバネにして、起業家精神の強い人材やコンピューターに強い人材を多く輩出。現在では、Ericsson・IKEA・Volvo・H&M・現AstraZenecaなど、日本でも名前が知られる世界的な大企業が数多く存在し、スウェーデン経済を支えている。
3. 政府による積極的なICT投資による効果
スウェーデンのシリアルアントレプレナーで、Mr. GreenというオンラインカジノゲームでNasdaq Stockholmで上場を果たし、これまで30社以上のスタートアップにエンジェル投資をしてるMikael Pawlo氏は、国民のITリテラシーの高まりがスタートアップの成長を加速させていると考えている。
Pawlo氏は「1980年から2000年にかけて、Commodore 64、Amiga 500、そしてPCが登場し、それが企業の基盤となった。また、90年代から政府によるパソコン購入の税控除や、世界最大級のオープンなファイバー回路網を構築するなど、政策的にITインフラ整備が行われてきた。2000年代初頭には家庭用PCに対しても政府から補助金が出され各家庭に普及。さらに、民間企業によってスウェーデン全土にブロードバンドが整備され、すべての人が繋がるようになった。現在、国民はマイナンバーで管理され、電子政府化が進んでいる。これらの理由により国民のITリテラシーは高く、スタートアップのサービスが根付きやすい環境がある」と語る。
また、スウェーデン政府は先のICT投資に加え、独自のVCファンドindustrifondenによってスタートアップを後押ししている。