ビジネス

2021.05.03

ユニコーン輩出大国スウェーデンの「成長の7ファクター」に迫る

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大企業向けに社内起業等、イノベーション創出支援サービスを提供しているEpicenter StockholmのJack Melcher-Claësson氏によれば「社員が新規事業に挑戦することで、成功すれば既存事業に貢献する事業になるかもしれないし、失敗しても社員に起業家マインドが生まれ、会社の変革を推進するイノベーション人材として貢献する。また今日において、優秀な若手社員のリテンションには、社内で挑戦できる機会を与えることが必要不可欠である」ため、この制度は雇用主にもメリットが大きいそうだ。

スウェーデン人に年功序列・終身雇用の概念はなく、やりがいや成長を求めて数年で転職を繰り返すことが一般的で、優秀な人材ほど流動性が高い。起業のために退職する社員もいれば、起業家が新規事業創出のために転職してくることもある。留学や旅行、自分探しも含めたブランク期間を人生経験として前向きに捉えることが、物事の本質をとらえ、従来の方法に囚われず、より革新的な考え方ができるイノベーション人材が多くなる所以である。

事業立ち上げには、経験に裏打ちされたスキルを持ち、アイディアを形にして実行できる人材が不可欠である。この点、スウェーデンのグローバル企業は優秀な新卒学生の受け皿となり、彼らが就業を通して社内外での起業に必要な経験とスキルを得、課題意識と起業へのインスピレーションを持てる場を提供している。大企業は起業家の教育機関としての役割も持ち、持ちつ持たれつの関係でイノベーションエコシステムを支えているのである。

7. 持続可能な社会の実現の為にクリエイティビティが高まる


スウェーデン人は、より高い目的を達成するために何かを作りたいという生来の欲求がある。寒冷な気候と電力を必要とするハイテク社会のために、世界平均の3倍ものエネルギーを消費している。1990年代、ストックホルムは持続可能性の一環として緑地の保護を決定し、環境と気候変動は、すべてのスウェーデン人にとって重要な問題として上位に登り続けている。

その一例が、「食品廃棄ゼロ世代」に対応したアプリ「Karma」だ。このアプリは、小売業者が余った食品を消費者に安価で販売することを可能にし、素晴らしい食品が無駄になることを防ぐ。同じミッションを持つレストラン「Spill」では、シェフたちがレストランのサプライヤーから余った食材を入手し、95クローナ(約1200円)で毎日2品の料理を作り、無料でおかわりもできるサービスを行なっている。このような「もったいない精神、持続可能な社会の実現」は日本の精神との親和性も高く、学ぶところが多い。

karmaのホームページ
Karmaのホームページ。食料廃棄は本当に愚かだ、と強いメッセージを発信している。

コロナ禍における起業家コミュニティーの今


Tech Nordic Advocatesスウェーデン代表のBarry O’Brien氏によれば、スウェーデンは、ホワイトカラーはほぼ在宅勤務に移行、コワーキングスペースでもメンバーは3割程度に減り、オンラインでのネットワークハブを開設し、海外の投資家も参加できるオープンイベントを増やしていくそうだ。オフラインでは物理的な壁に阻まれていた者同士が繋がりやすくなった今、未だかつてないほどイノベーションにつながるセレンディピティを起こしやすい状況といえよう。

Clubhouseでも、Nordic Tech Clubというクラブが立ち上がっており、とてもフレンドリーでユーモアに溢れ、知性が感じられるトークが毎回楽しく、筆者が当コラムでインタビューさせて頂いた投資家や起業家などと知り合うきっかけにもなった。

コロナウィルスによるパンデミックで従来の社会の前提が揺らぐ今、欧州におけるイノベーション指標で首位を獲得したスウェーデンの取り組みには、日本が今後進むべき方向を考える上で多くのヒントが隠されているのではないだろうか。

連載:イノベーション・エコシステムの内側
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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