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2021.05.03

ユニコーン輩出大国スウェーデンの「成長の7ファクター」に迫る

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4. 若者のロールモデルとなる「バブル崩壊に打ち勝ったクレージーな起業家たち」


ストックホルム証券取引所で上場経験もあるシリアルアントレプレナーで、米国、東南アジア、ドイツ、スイスなどでエンジェル投資家のBoris Nordenstrom氏によると、「90年代半ばにはクレイジーな若い起業家たち(Tele2、Metro新聞、ラジオ・テレビ・電気通信の規制緩和などを手がけたJan Stenbeckの影響を受けた者が多い)が先頭に立ち、数々の企業(Icon Medialab、Let’s buy it、Spray、Joblineなど)を立ち上げ成功し、グローバル企業となった。

今日までに3回のバブル崩壊があり(1998年、2000年、2007年)、今日のユニコーン企業の創業者の多くがこの逆境からの脱却のために、ビジネスを構築してきた。ドットコムバブル崩壊後にSkypeが生まれ、大成功し、その後、Mojang(Mine Craft)などの企業が続いた。これらは再び、若者のロールモデルとなり、現在、ユニコーンは約16社に達している」という。

ストックホルムに本社を置くベンチャーキャピタルEQT VenturesのSandra Malmberg氏によれば、「ユニコーン起業家による後輩達への投資やメンターシップといった好循環が起き、コワーキングスペース、イベントハブ、補助制度、VCが支えるスタートアップエコシステムも発達。特にストックホルムでは、起業家コミュニティが多く、たとえ起業に失敗してもその経験は一つの資産として受け入れられ、他の起業家からもスカウトされやすい」と言う。

5. 大学でのアントレプレナーシップ教育の充実度


スウェーデン王立工科大学・ストックホルム商科大学・カロリンスカ研究所・ストックホルム大学の四大学連合であるStockholm School of Entrepreneurshipでは、インターカレッジで多くの学生が起業家要請プログラムが受けられる。同プログラムで教鞭を取るEbba Laurin教授によれば、「異なる学問を学ぶ学生がスキルを持ち合うことで、プロジェクト形式の授業から実際に起業に至るケースも多い」という。各大学独自のファンドやインキュベーションプログラムも多く、フィンテック分野のユニコーン企業Klarnaはストックホルム商科大学の起業ラボ出身である。

Stockholm School of Entrepreneurshipのホームページ
Stockholm School of Entrepreneurshipのホームページ。プログラムの充実が際立つ。

また、スウェーデンの教育は非常に実践的で、企業とコラボレーションしたプロジェクト形式の授業も多い。そもそも、高校卒業後は一度就職し、やりたいことを見つけてから大学に入ることが「普通」なので、学生の目的意識は明確であり、即戦力スキルを持つ学生への企業側の期待は高い。企業と学生による共同研究や、長期間のインターンシップも多く、夏のインターンシップを延長して休学し、一年働いてから復学するといったケースもよくある。

6. イノベーション人材は流転する~会社員の起業を支える仕組み~


著名ベンチャーキャピタリストのSarayu Srinivasan氏は、「医療費や教育費を負担する社会福祉制度があるため、国民は安心して、自由に、起業のような通常はリスクの高い事業に取り組むことができる」と語る。

一般に会社員勤めと起業は相容れないキャリアパスと考えられがちだが、スウェーデンは、会社で働く正社員が就業期間中に1回だけ取れる無給のサバティカル休暇がある。これは従業員が会社に籍を残したまま6カ月間起業に挑戦できる制度であり、法律で保証された権利なので、雇用主は事業が直接的競合であったり、欠員がオペレーションに重大な影響を及ぼすといった事由がない限りは拒否できない。
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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