そして実は、生涯の月経回数が増えたことで、子宮内膜症など女性特有の疾病の発症率が増加する原因になっているともいわれる。月経は女性に生まれた限り避けようがないものとして考えられてきたが、慶應義塾大学名誉教授(産婦人科学)の吉村泰典医師は、最近の医学の世界では「月経は必要のないもの」ということが常識になっていると言う。
もちろん、妊娠を望んでいないことが前提だ。妊娠を望まない女性が排卵をなくし月経を止めても問題がないのは、そもそも月経が「受精卵が子宮に着床しなかった結果」だからだ。
毎月の月経周期が「むしろマイナス」になることも
月経とは、受精卵の着床のために約1カ月(いわゆる、月経周期のこと)かけて、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの分泌により子宮内膜が厚くなるが、受精卵が子宮に着床しなかったことで、不要になったこの子宮内膜が剥がれ落ち、腟から排出されることを指す。
この月経周期を正常に繰り返すことが、妊娠のために必要だと思われるかもしれないが、むしろ毎月のサイクルがマイナスになることもある。前述の通り、月経は受精卵の着床のために分厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちること。妊娠を望まないなら、排卵し子宮内膜を厚くする必要はない。女性ホルモンをコントロールすることで、排卵が止まり、子宮内膜を厚くする動きを抑制するので、月経が起きなかったり、あったとしても軽くすむようになる。
月経の悩みから解放される方法はすばり、ピルの服用
そして、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンをコントロールする方法が、ピルの連続服用である。ピルの連続服用によって月経をコントロールする動きは、欧米では約20年前ほどからあるという。
ピルで月経を止めても女性のからだには影響がないことは、長い年月をかけて実証されてきた。今や、医学界では月経が不要という考えは常識だ。欧米の女性にとって、ピルの服用は当たり前のことであり、例えばドイツにおける連続投与の普及率は70%にもなる。しかし、日本では月経を強制的に止めることへの抵抗が根強く、いまだに普及率は周期性投与を含めても3%と、世界的に見ても圧倒的に低い。日本で、連続服用できるピルが発売されたのが2017年と、欧米から20年も遅れをとっているのも普及が進まない一因だろう。
また日本では、女性も男性も「生理が当たり前」と考えている人が大半だ。日本でのピル服用者の多くは、月経時のひどい月経痛を軽くすることや、月経周期を安定させることを目的にしている。一方、欧米では、単純にQOLを向上させるために服用している人が多いのが特徴的だ。
ピルは安心して服用し続けられる「安全な薬」
ピルを安心して使える薬だと吉村医師が薦めるのは、ピルが長年の研究開発を経て、女性が使い始めてから数十年経過しているからだ。
吉村医師は言う。
「月経の3大トラブルといえば、下腹部が痛む月経痛、経血量が多い過多月経、月経前のホルモンの変動によって起こる月経前症候群(PMS)です。対処法として、いずれにも効果が期待できるのが、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、いわゆる低用量ピルです。服用により経血量も減り、子宮収縮による痛みも減ります。薬によって、ホルモンの変動も少なくなり、PMSの症状も緩和されます。
慶應義塾大学名誉教授(産婦人科学)吉村泰典医師
この半世紀で女性の生き方は劇的に変わりました。今では結婚・出産を経ても社会で活躍している人が珍しくありません。そんなアクティブになったライフスタイルの中で、相変わらず女性の悩みの種となっているのが月経です。月経の辛さから解放されるためには月経を止めるのがいい。ピル服用が現代女性の“苦しみ”を解放する、現時点での最良の手段だということです」
1950年代にアメリカでピルの研究が始まり、1970年代には低用量ピルが開発されたことで多くの女性が使用するようになった。ピルは副作用のリスクも低く、すでに一昔前から欧米を中心に愛用されてきた薬なのだ。
唯一気をつけるべきは、服用開始から最初の3カ月に発症する可能性のある、エコノミー症候群とも言われている「血栓症」。日本人では、あまり発症する人も少ないとされているが、異常を感じたらすぐに産婦人科を受診しよう。それを除けば、ピルを服用することでむしろ子宮は正常な状態に導かれるので、ピルを止めるたらすぐに妊娠することもあるほど、女性に良い影響をもたらすだと言える。
子宮内膜症予防のためにも、月経回数は減らすべき
吉村医師が現代の女性にこそピルの服用を強く勧めるのは、ピルの服用が子宮内膜症の予防にもなると考えているからでもある。子宮内膜症の原因の一つが、月経の回数の増加だ。以前よりも初経の年齢が早まっていることに加え、生涯に産む子どもの数が減っていることで、年々女性が生涯に経験する月経の回数が増えている。女性は、妊娠から授乳までの約2年半は月経が起きないことが多く、もし戦前であれば平均6人の子どもを産めば、トータルで15年間も、月経を迎えなかった計算になるのだ。
月経回数の増加に伴い、実際に、子宮内膜症で医療機関を受診した女性の数は平成9年から平成26年の17年間で約2倍にもなっている。
子宮内膜症の予防のためにも、月経の回数はなるべく減らす方が良い。様々な理由で女性のからだへの負担が重すぎる月経をコントロールすることは、QOLの向上に直結する最良の手段の一つなのだ。
今やオンラインでも購入できるようになったが、ピルの服用を始めるときは、まずは産婦人科を受診し、医師と相談することが大切だ。日本には、28日周期で服用する「周期服用型ピル」と「連続服用型ピル」の2種類がある。それぞれにメリットとデメリットとがあるが、最初に周期服用型でピルに慣れてから、医師と相談し連続服用型にすると、血栓症のリスクも減るので安心だ。