経済・社会

2021.04.28 15:00

「持続可能」に舵を切った新法律で、日本の漁業はどう変わるのか?

Monty Rakusen/Getty Images


次に、水産改革第2弾として昨年12月11日に公布され、今後2年のうちに施行される流通適正化法の目的は、世界の水産物の13〜31%(重量ベース)をも占めると言われている違法漁獲物を、市場から排除することにある。「国内漁獲物のトレーサビリティ(追跡可能性)の確保」と「国外からの違法漁獲物の流入防止」が2本柱となる。
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違法漁獲物の流通が水産資源量に与える影響は甚大である。たとえばエネルギー資源は埋蔵量が決まっており、使えば使うだけ資源量は減少する。しかし、水産資源の場合は、自然の再生産システムがあり、適切に管理して漁獲しているかぎり永続的に利用することが可能である。

サステナブルな資源消費が可能な、なんともありがたい資源なのだが、反面、適正に管理しなければ枯渇してしまう恐れもあるのだ。違法漁獲物が流通することによって水産関係者の被害は甚大なものになる。

今回の新法のもと、今後、国内漁業においては「漁獲証明制度」が設けられ、「漁業者等の届出」「情報の伝達(名称・漁獲番号等の情報)」「取引記録の作成・保存」「適法漁獲等証明書を添付していない水産物の輸出規制」などが義務付けられる。これにより海から消費者まで、一貫した情報のバトンが渡されることになる。
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さらに輸入水産物については、外国の政府機関等が発行した証明書が添付されていない場合、輸入を制限することになる。

これらの法案の成立の背景には、安倍前首相から菅首相への長期政権による、官邸主導の規制改革推進会議のリードと、国際世論の高まりがあった。

IUU漁業の撲滅は、SDGs14においても達成すべき目標として定められ、日本が主導した2019年のG20大阪宣言の40番でも明記された。まさに海洋のサステナビリティを語るうえで欠かすことのできないターニングポイントが到来したのである。

しかし一方では、日本のIUU漁業撲滅への貢献度に対して疑問符も投げかけられていた。2019年に経済協力開発機構(OECD)が取りまとめたIUU対策レポートにおいて、日本は「全般的には責任ある対策を講じているものの、水産貿易における証明制度の整備など、市場国としての対応については加盟国の平均を下回っている」との厳しい指摘を受けたのだ。

それゆえ、前述のように世界中から法案可決に歓迎のメッセージが寄せられたことは意味深い。そして水産庁がこの世界の期待に応えるためには国民の応援が大きな力になると思われる。

行政と漁業者の新しい形


では新法を形骸化させず、水産資源の持続的利用とIUU漁業撲滅に真に貢献していくためには、どのような課題に取り組むべきだろうか。

水産流通適正化法は、今後2年をかけて詳細設計が行われるが、その課題は、輸入規制の対象魚種の範囲設定と国産規制対象魚の評価基準の決定である。

輸入規制に関しては、現在、すでに水産物の輸入規制を行っているEUとアメリカは、それぞれ独自の基準を設けている。2010年に制度をスタートしたEUは全魚種を対象としている。また、2018年に始めたアメリカは現在主要13魚種のみに限定してスタートしている。
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文=井植美奈子

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