「持続可能」に舵を切った新法律で、日本の漁業はどう変わるのか?

Monty Rakusen/Getty Images


とはいえ、評価基準においては世界でも統一基準は設けられておらず、各国の足並みもまだ揃っていない。

日本は、水産行政や水産資源の持続可能性への配慮という点で、EUやアメリカに比べると周回遅れの形となっていたが、この輸入規制対象魚の評価基準設定に成功すれば、日本の評価基準が国際基準を示すことができ、世界でイニシアチブをとっていけるのではないかと筆者は考える。

具体的には、国際基準の標準化をめざすGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)が推奨するKDEs(Key Data Elements)を評価基準として取り入れ、将来的にはこの基準が世界標準化することにより、IUU漁業を国際市場から撲滅することに大きく貢献できるだろう。

さらに国内水産物に関しては、漁獲証明の義務化に際して、将来的にはEUのように全魚種対象とするのが理想だが、そこに行き着くまでにどの魚種を優先させるか、その対象魚種の選定基準の透明かつ科学的な設定が必要だ。

これらの課題解決のためには、まずは、水産の現場関係者の意識変容、理解と積極的な参画を得ることである。日本では長らく漁業組合が水産行政に対して大きな影響力を有し、全国各地の各漁協が独自のルールに則り漁業を行ってきた。

漁業先進国と比べると杜撰な日本の水産資源管理政策のもと、個別漁業者に対する漁獲制限等の規制がほぼないまま、過去70年以上にわたり漁業者と行政の「共同統治」がなされてきた。

管理手法についても、これまでは旧法にあった資源管理計画の枠組みに基づき、漁獲高や運営記録の取り方は漁業組合ごとにまちまちであった。2016年の自民党の調査ではその約8割が不適切だと指摘されてもいた。

今回の改正漁業法と水産流通適正化法は、この旧体制を抜本的に進化させるものであり、まさに国と漁業者の新時代へのチャレンジである。

いつの時代も、改革には革新派と保守派の対立やジレンマがある。この大改革も一部の受益者や保守的な関係者には戸惑いがあるかもしれない。しかし漁業者にこそ歓迎されるべきものなのだ。なぜなら生産者に多大な利益をもたらす水産業の成長産業化、持続可能性の確保のポテンシャルを秘めているからである。

かつての漁業大国であった日本が、世界の先進的な水産大国として蘇ることができるか否かは、水産流通適正化法の施行までの2年間の詳細設計によるところが大きい。

さらに、日本はデジタル庁の設置から、国を挙げてDXに注力していこうとしているが、水産業もデジタル化、スマート水産業という課題に取り組めば、その先に大きな進歩が待っている。

われわれ国民も、この法改正を歓迎し、水産改革を後押しするために、今後の詳細設計と施行のプロセスを、期待を込めて注意深く見守っていく必要があるだろう。

連載 : 海洋環境改善で目指す「持続可能な社会」
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文=井植美奈子

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