米ジョンズ・ホプキンズ大学やイスラエル政府の集計によると、イスラエル国内の新型コロナによる死者は1日あたり70人超を記録した今年1月をピークに急減し、過去1カ月は同10人未満で推移している。前回死者がゼロだったのは昨年6月だった。
感染者数も1月半ばの1日あたり8000人超から足元では120人前後と大幅に減っている。イスラエルの感染率の低さは国際的にみても際だっており、100万人あたり15人という新規感染者数は英国(37人)や米国(187人)、カナダ(228人)、フランス(463人)といったほかの先進国と比べて著しく少ない。
イスラエルの成功はワクチン普及の強力な推進と切り離せない。ブルームバーグのまとめによると、ファイザー製ワクチンの接種を少なくとも1回受けた国民の割合は59%にのぼり、ブータンやセーシェルのような小国を除けば世界で最高だ。60歳以上では90%、90歳以上では99.1%に達しており、新型コロナによる死者の大半を占める年齢層が優先的に守られる形にもなっている。
感染者数の減少を受けて政府は公衆衛生規制の緩和に動いている。今月には学校が再開したほか、屋外のマスク着用は義務でなくなった。ワクチン接種が完了した人は、店内飲食や施設でのコンサート鑑賞なども可能になっている。
これまで国際的なワクチン接種レースで先頭を走ってきたイスラエルは、ファイザー製ワクチンの有効性を確かめる大規模な「試験場」になっている。政府は実地データの提供と引き換えに、ファイザーから早い段階でワクチンを大量に確保した。保険組織「健康維持機構(HMO)」の緊密なネットワークのほか、国土の狭さも手伝ってすみやかな接種が行われてきた。
これまでのところ結果は良好だ。ファイザー製ワクチンは国内の大多数の新型コロナ患者で重症化や死亡を防いでいるほか、南アフリカで発見された変異種で効かない場合があったものの、大半の変異種にも有効とみられている。そのため、ワクチンは確かに機能すると楽観できる根拠として、世界中の保健専門家がイスラエルの例に言及している。
「わたしたちは皆、米国に平常を取り戻したいと思っています。それにいたる道こそワクチン接種なのです。これはまさにイスラエルが示していることです。わたしたちもそこにたどり着けます」。米政府最高位の感染症専門家、アンソニー・ファウチ博士は19日、ホワイトハウスの記者会見でそう語った。
もっとも、ワクチン接種がかなり進んでいる国のすべてがイスラエルのように早々と成功を収めているわけではない。米国もすでに人口の41.3%が少なくとも1回ワクチンを投与されているが、感染者数は依然として相当多い。同じく40%超の国民が少なとも1回接種を受けているチリも、感染者数の急増に見舞われ、ようやく4月第3週に入って落ち着きがみられ始めた。
こうした違いには、隔離措置の解除時期がかかわっている可能性がある。イスラエルが直近の厳格なロックダウン(都市封鎖)を今年2月まで続けていたのに対して、一部の国は隔離措置をずっと早く解除していた。