リンダ・グラットンが長寿化社会、日本へ語る。一人ひとりが「社会の開拓者」になるために


━━なぜ「社会的創意工夫」が重要なのですか。

グラットン:Ingenious(インジニアス・独創的な)」という言葉は、異なる発想をするという意味だ。長寿化に伴い、私たちは人生を再考・再構築し、独創的でイノベーティブ(革新的)になる必要がある。ワクチン開発など、テクノロジーによる驚くべきイノベーションを見るにつけ、そうした発明や知恵をロボットやAIに振り向けるだけでなく、人生の再構築に使ってはどうか、というのが私たちの提案だ。

━━企業のアジェンダについて説明してください。

グラットン:ポイントは3つ。まず、人々が70代まで働き続けられるよう支援すること。そして、従業員に学びの場を提供し、年長者が取り組めるような仕事を創出すること。3つめは日本企業にとって重要な点だが、労働時間や勤務場所など、柔軟性のある働き方を提供すること。この点では、コロナ禍が推進役になった。企業は従業員教育に及び腰だったが、オンライン学習の普及で、研修コストが下がった。これは企業にとって、重要な意味をもつ。

メッセージは「勇敢であれ」


━━「誰もが『社会的開拓者』になる心構えを持たねばならない。これが本書の核となるメッセージだ」と、書いていますね。

グラットン:3冊の本を通し、人生や仕事、現役で働き続ける年数、家族などに関する思い込みを変えねばならないというメッセージを送ってきたが、問題は、どのようにそれを実現するかだ。例えば、私のように本を書き、人々がよりよい人生を送れるよう励ます方法もある。だが、大半の人々は、ほかの人が変わるのを見て、自分も変わろうと思うものだ。誰もが同じ人生を歩んでいる限り、誰も変わらない。

そこで、「社会的開拓者」の存在が重要になってくる。例えば、最高経営責任者(CEO)を目指す40歳の日本人女性幹部や、大企業志向の日本で起業する人々がそうだ。人と違う生き方をするには大いなる勇気が必要だが、開拓者の後には道ができる。社会的ムーブメントを起こすのは、決まって勇敢な人々だ。

━━「老犬に新しい芸を教えられない真の理由は、犬が年をとったからではなく、新しい芸を学び続けていないからだ」という一文についてはどうですか。

グラットン:年を重ねると何も学べないと考えがちだが、それは思い込みだ。私は66歳だが、常に新しいことを学んでいる。もちろん、ほかの人々にもできる。そのためには、学ぶ習慣を身につけることだ。

学校というコミュニティに属していた15歳の頃と違い、年齢とともに学びのコミュニティは減っていく。だから、努力が必要だ。自らの脳に学ぶ必要性を刻み込まねばならない。企業や政府、大学は、人々が何歳になっても学べるよう支援すべきだ。

━━老犬が新しい芸を学ばないのは彼らの責任でしょうか。従業員教育を渋る企業や、学ぶ必要性・意欲・競争力を低下させがちな年功序列制や終身雇用制など、日本型雇用制度のせいでしょうか。

グラットン:心理学者の分析は2派に分かれるだろう。老犬に非があるとする一派と、環境が原因だとする一派だ。しかし、実際には双方の責任だ。老犬に学ぶ意欲があるか、企業や政府がそれを支援しているか、だ。誰もがエベレスト登頂を目指すとは思わないが、目指す人もいる。それが社会的開拓者だ。「勇敢であれ」というのが新刊のメッセージだ。

企業や政府、大学は変化が遅い。最も変化が速いのは個人だ。まずは、自分が変わろう。ほかの人が後に続けば、企業も耳を傾け、いずれは変わる。
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インタビュー=肥田美佐子 写真=グレッグ・ファンネル

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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