リンダ・グラットンが長寿化社会、日本へ語る。一人ひとりが「社会の開拓者」になるために


━━『ワーク・シフト』に続き、『LIFE SHIFT』、そして、『The New Long Life』の3冊に共通する問題意識はどのようなものですか。

グラットン:前向きなメッセージを送りたかった。人間主義にのっとる心理学博士として、私は、人々を善的存在だと考える。家族の世話や仕事に精を出し、充実した人生を送りたいと願うのが人間だ。人生をよりよくするために何ができるのか━━これが共通の問題意識だ。新刊では、企業や大学、政府が何をすべきかについて、たっぷり紙幅を割いた。

実は博士論文で、人間は自己実現のために成長し続けるものだという、米心理学者アブラハム・マズローの「欲求階層説(5段階説)」について書いたのだが、すでに博士論文のなかで、自著で説いたアイデアの幾つかを展開している。自著に共通する問題意識は、長年温めながら膨らませてきたものだ。

━━『ワーク・シフト』出版から時を経て、あなたの考え方はどのように変わってきましたか。

グラットン:当時の予想より変化が速かったものもある半面、遅かったものもある。テクノロジーの変化の速さを予測するのは至難の業だ。家族についても、男性は、子どもともっと長い時間を過ごすようになると思ったが、コロナ禍でも女性が子どもの面倒の大半を見ていることがわかり、驚いている。

一方、コロナ禍を境に、日本企業が仕事の未来について考え方を変え始めたのは素晴らしい。その筆頭が富士通だ。同社は国内の従業員、約8万人の在宅勤務を決行した。オフィスでの長時間労働が当たり前だった日本企業では女性が幹部になりにくかったが、この変わりようは見事だ。企業が組織のあり方や働き方について、真剣に考え始めている。

━━テクノロジーの発達による長寿化をプラスに捉えられないのはおかしいという考えが、執筆背景にあるのでしょうか。

グラットン:『LIFE SHIFT』では、寿命が100年に延びると何が起こるのかという問題に絞った。だが、新刊では、テクノロジーが私たちの人生を一変させている点に着目し、充実した人生を送るには何をすべきか、いかなる社会変革が必要なのかを問いかけたかった。年齢やテクノロジーの話にとどまらず、家族に関する問いも投げかけた。

新刊では、人生100年時代を迎え、考えるべきポイントを3つ挙げた。1つめは、自分の人生をストーリー化する「Narrate(ナレート・物語る)」。2つめが、人生のステージを模索する「Explore(エクスプロア・探求)」。3つめが、密な人間関係を築き上げる「Relate(リレイト・結びつく)」。

まず、どのような人生を送りたいか、どのように、その考えを広げていくか。次に、どのように学び、異なるステージへと移行し、自分を変革していくか。最後に、そうした人生を送るには、どのように家族や隣人、コミュニティとの関係を深めていくべきか。これが新刊の核となる部分だ。

そして、人々が「Social Pioneer(社会的開拓者)」になって上記3点を実現するには、企業や教育機関、政府による「Social Ingenuity(社会的創意工夫・知恵)」が必要だ。企業や大学、政府が何を変革すべきなのか、アジェンダを提起した。
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インタビュー=肥田美佐子 写真=グレッグ・ファンネル

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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