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2021.05.05

コロナで広がる「ズービキティ」 ペット由来のビッグデータでヒト医療が進歩する

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アメリカをはじめ、日本や中国、タイではGDPの伸びに伴い、個人の所得が増加。それに伴い教育費の割合が高まり、子どもの数が減っているのが現状だ。子どもが減った分、ペットが増え、ペットにお金を使うようになるという現象が起きている。そこで大きな課題となるのが「ペット医療」だと奥田氏は語る。

「急増するペットに対して、獣医師が足りていません。日本では医師1人あたりの診療人数が約400人と言われるなか、獣医師では1人あたりの診療が約1100頭、インドにおいては一人あたり7000〜8000頭にも上り、日本でもインドでもまったく足りていない状況です。特にインドでは今後ペットが増えていくことを考えると、10年〜20年先には、獣医師ひとりあたり2、3万頭診なければならず、ほぼ不可能です。

ではどうすればよいのか。単純にペットの数を減らすか、獣医の数を増やすかですが、ペットは減らないし、大学で獣医学を学んだ上で国家資格取得が必要な獣医師を急に増やすことも難しい。となると、獣医師ひとりあたりの診察効率を上げるしかないんです。その手助けとなるのがテクノロジーです」

ペットテック商品、伸びるのは「必需品」


奥田氏はインドの動物病院で、まず自社で開発した電子カルテを導入した。そもそもインドではカルテを作っていない病院がほとんどで、情報の蓄積がされていない。獣医師が医療行為以外のことに40%ほどの時間を使っているというデータもあることから、奥田氏は、経営システム、カルテ、会計システムをはじめ、診察のウエブ予約、薬の在庫管理にもテクノロジーを導入するべき、という。さらには過去の経験から病気の原因を絞り込んでいる問診も、データに基づいたAI問診にすることで、獣医師は実際の処置の部分だけに集中してやることが可能になると考えている。

日本の動物病院の現状もインドと大差なく、いまだに紙のカルテが一般的だ。奥田氏は業務のデジタルトランスフォーメーションが必要だと考えており、2021年には東京にある自社の動物病院にも、インドで導入した電子カルテを日本向けに修正して導入。データの共有による迅速な処置を目指している。こうした医療分野とペットテック産業が連携できれば、業界は伸びると奥田氏は考える。


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「AI搭載のペットテック商品が、ペットが生きていくためになくてはならないものであれば、市場は伸びるでしょう。ですが、現状ではどちらかというと嗜好的なものになっているような気がしています。高価なペットテック製品を、一般の飼い主が購入する機会はそう多くはないはずで、それでは市場の拡大は厳しいと個人的には見ています。各メーカーは、『健康のため』と謳った商品を出しているものの、これが本当に医療分野に組み込まれ、健康のために役立っているかと問われると、そうだと答えられないものがほとんどではないでしょうか。

たとえばペット市場で大きな割合を占めているペットフードに関しては、犬種ごとに変えることはもちろん、過去の正確な病歴などのデータに基づいた、この飼い犬にはこれが最適!とカスタマイズされたペットフードであれば売れると思うんです。しかし現状は、自分のペットにはできるだけいいもの、人間に近いものをあげたいという、どちらかと言えば飼い主側の自己満足だけのような気がしてなりません。それでは伸びていきません」
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構成=真下智子 編集=石井節子

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