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左|国際博覧会担当大臣兼内閣府特命担当大臣 井上信治 右|eiicon company代表 中村亜由子

近年、社会課題の解決や新規事業の創出を目的に外部の力を取り入れる、オープンイノベーションが活発になっている。内閣府もこの動きに注目し、「日本オープンイノベーション大賞」を運営するなどして事業者を積極的に支援している。政府がオープンイノベーションを推進する狙いは何か。また、オープンイノベーションの創出には何が必要なのか。

日本のオープンイノベーションの舵取り役であり、国際博覧会担当大臣兼内閣府特命担当大臣の井上信治と、日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」を運営するeiicon company代表の中村亜由子が語り合った。

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中村亜由子(以下、中村):私たちが運営するAUBAではローンチから3年で1,000件を超える共創事例が生まれ、オープンイノベーションという手法が日本でも一般化してきたと実感しています。そのようななかで、内閣府が2018年から主導する「日本オープンイノベーション大賞」には創設当初から注目しています。21年2月に行われた第3回では、よりさまざまな分野の事業者や研究者が受賞していてとても興味深かったです。なぜこのような表彰制度が設けられたのでしょうか。

井上信治(以下、井上):国際競争力を高めるうえでイノベーションはとても重要ですが、研究成果の社会実装をどのように促進していけばいいのか。その鍵となるひとつがオープンイノベーションです。産官学の連携、あるいは企業同士のマッチングによって、社会や産業構造に変化をもたらす大きなビジネスの創出が可能になります。

それを活性化させるには成功事例の横展開が必要ですが、表彰制度がそれを後押しします。成功事例を広く社会に知らしめ、その取り組みに刺激を受けた方々がまた新しい挑戦をし、イノベーション創出の好循環を生み出します。 

中村:内閣総理大臣賞をはじめ、各省庁を冠した賞が設けられていますが、第3回ではどのようなプロジェクトが特に印象的でしたか。

井上:どれも素晴らしい取り組みでしたが、強いて挙げるならば、内閣総理大臣賞を受賞した「社会的意思決定アルゴリズムのオープンソース開発&実装基盤」に注目しています。これは、AIによる新規アルゴリズムの安全性や効率性を検証するための性能評価技術です。スタートアップなどの企業と大学が連携して開発しましたが、今後幅広い領域のアルゴリズムの改善に寄与し、AIの社会実装を促進することでしょう。

また、科学技術政策担当大臣賞を受賞した「生体認証とバイタルサインの同時計測が可能なシート型イメージセンサの開発」にも将来性を感じました。これも大学と企業が連携して開発した技術で、静脈や指紋による生体認証とバイタルサインのひとつである脈派の計測が可能なシート型のセンサです。ウェアラブルデバイスでのセルフケアにおける「なりすまし」防止や、病院での患者の取り違え防止などへの活用が期待されます。

いずれも30代の若手研究者が中心の取り組みであり、今後も若い世代にがんばっていただきたいです。

中村:政府としては今後、どのようにオープンイノベーションを推進していくのでしょうか。

井上:オープンイノベーションはイノベーション創出の重要な柱ですので、政府としても引き続き推進してまいります。日本オープンイノベーション大賞も継続し、成功事例の横展開や気運の醸成をさらに促進していきます。

ただし改善も必要です。内閣総理大臣賞をはじめいろいろな賞があることはいいことですが、各省庁がまだまだ縦割りです。内閣府が先頭に立って進め、オープンイノベーション支援における各省庁の一体感を強化することが重要です。



「スタートアップ・エコシステム」を構築


中村:オープンイノベーションでは、スタートアップが重要なプレーヤーになるケースが多いですが、スタートアップの支援についてはどのようにお考えですか。

井上:都市を中心に自治体、大学、民間が連携し、スタートアップが次々と生まれるエコシステムを構築することが必要だと考えています。内閣府では昨年7月、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」を選定しました。首都圏、中部圏、関西圏に加え、福岡、札幌、仙台、広島、北九州を選びました。関係省庁と連携し、予算の優先配分、規制緩和、海外への発信などの集中的な支援をしていきます。

中村:広島と仙台に関しては、我々もご支援させていただいています。コロナ禍なのでオンラインイベントが中心ですが、反響が大きく、多くの共創が生まれています。井上大臣は、スタートアップと交流する機会はございますか。

井上:本当は拠点都市をすべて回りたいのですが、新型コロナウイルスの影響でなかなか実現できていません。ただ、私は国際博覧会担当大臣も兼務しているため、昨年、大阪を訪問してスタートアップを視察しました。プレゼンをしてもらいましたが、どれもオリジナリティーがあって、何よりも熱気をすごく感じました。

中村:ホットスポットといいますか、熱気がある場所をつくることは、我々も非常に重要だと感じています。そうした場所をひとつでも増やしていこうと、4月からは愛知県も支援させていただいています。

井上:愛知県は私も先日訪問し、「空飛ぶクルマ」を開発しているSkyDrive(スカイドライブ)の開発現場を視察しました。ただ、この分野において同社が国内唯一のプレイヤーなのが非常に残念に思いました。本当はもっと多くの事業者に手を挙げていただきたいところです。切磋琢磨することで、いい製品は生まれます。海外のプレイヤーは資金規模がまったく違うので、それに勝つのは容易ではありません。大阪・関西万博で空飛ぶクルマを実際に飛行させる計画がありますが、日本企業が世界に向けてその実力を示すことを期待しています。

中村:社会実装をしやすくするためには、規制を変えていく必要もあるのではないでしょうか。

井上:規制緩和も必要です。ただ前例がないことなので、規制を変えるというよりも、むしろ新しくつくっていかなければなりません。安全性がもちろん最優先ですが、それ以外の部分に関しては、夢のある技術に取り組んでいる企業にのびのびとやってもらえるように環境を整備するのが我々の仕事だと思っています。



ワクチン開発の遅れの一因はイノベーション力の低下


中村:井上大臣は留学経験をおもちなので、海外の企業カルチャーに触れる機会もあったと想像するのですが、日本のイノベーションと比較してどう思われますか。

井上:海外のアプローチは日本とまったく違います。日本も後発ながら欧米のシステムを参考にし、近年は少しずつイノベーションが広がっていますが、国際競争力の観点では見劣りします。わかりやすい例を挙げると、なぜ国産の新型コロナワクチンの開発がこんなにも遅れているのか。これまでチャレンジしてこなかった結果が出てしまっているわけです。 

私がケンブリッジ大学に通っていたのは20年以上前ですが、当時からイノベーションの気運はありました。私の日本人の友人もケンブリッジ大学を出てそのまま現地で起業し、日本で起業しようとは思わないといっていました。環境が整っておらず、資金集めひとつとっても大変だからだそうです。

中村:日本ではまだ資金の出し手であるベンチャーキャピタルのほうが立場が上という風潮あります。そういった意味では、政府による支援が重要です。

井上:日本は保守的であり、かつての成功体験のせいもあるのでしょうが、いまの時代に追いついていないという現実があります。研究者や起業家が日本で事業を展開できる環境をしっかり整えないと、優秀な人たちがますます海外に出て行き、国内が空洞化してしまいます。資金支援も含め、環境を整備することは我々の責務です。

中村:資金支援に関していえば、イノベーション創出の目玉政策として中小企業技術革新制度(SBIR)の抜本改正をしたとうかがっています。

井上:SBIRは日本の未来産業を創出するうえで非常に重要なポイントです。1982年に導入したアメリカは長年にわたって運用し、それがイノベーションの源泉となっている側面があります。日本ももっと力を入れなければならないと考え、このたびSBIRの制度改正をしました。内閣府が中小企業行庁から所管を引き継ぎ、司令塔となることで各省庁との連携を強化し、研究開発から実装までを一貫して支援していく体制を整えています。

中村:心強いですね。

井上:ただし、中小企業やスタートアップがいくら新規事業を生み出しても、単独で成し遂げるには、追加資金調達や展開ノウハウなど、さまざまな面で困難に直面する場合があります。その打開策として、政府はオープンイノベーションの支援を掲げるわけです。

中村:アイデア、ノウハウ、研究体制、資金など、新規事業を成立させるにはいくつかのパーツが必要ですが、どの企業もそのいずれかはもっています。当社のプラットフォームの目的は、パーツとパーツを組み合わせて新規事業を生み出すことにあります。これまで2万2,000件のマッチングを実現してきました。今日お話を聞かせていただき、オープンイノベーションを望むすべての企業の役に立たなければとの思いを、さらに強くしました。

井上:マッチングはうまくいくときもあれば、いかないときもあるかもしれませんが、いろいろなプレーヤーに多くのチャンスを提供していただいていることはありがたいです。さらなる事業創出を期待していますし、政府としても秀逸なオープンイノベーション事例をどんどんクローズアップして、バックアップしていく所存です。一緒に頑張りましょう!


井上信治◎国際博覧会担当大臣、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)。東京大学法学部卒業、英ケンブリッジ大学修士課程修了後の1994年、建設省(現国土交通省)入省。2003年11月、自由民主党から衆議院議員初当選。環境副大臣兼内閣府副大臣などを歴任。

中村亜由子◎eiicon company 代表/founder。2008年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)入社。15年eiicon 事業を起案。特許庁オープンイノベーション促進契約ガイドライン策定委員。情報経営イノベーション専門職大学情報経営イノベーション学部客員教員。


 
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