グラミー賞の偏った審査の実態 2021年候補曲から解説


ブラック・ピューマズ 『Colors』

黒人シンガーと白人ギタリストのロック・ユニットによるナンバー。今年最大の問題曲といえる。というのもこの曲、総合チャートにランクインすらしていないのだ。

それでもノミネートされたのは、彼らがルーツロック系アーティストの梁山泊(りょうざんぱく)「ATOレコード」イチ推しのニューカマーだからにちがいない。よって白人男性の組織票が動いたことは容易に想像がつく。

曲自体は素晴らしいのだが、そんな思惑がチラホラして素直に楽しめないのが残念だ。それとルーツ・ミュージック寄りの曲ということなら、ロックダウン下で自伝作家からストーリーテラーへと華麗な転身を遂げたテイラー・スウィフトの『Cardigan』をノミネートさせるべきだったと思う(同曲収録の『フォークロア』は最優秀アルバムになったが)。

ドージャ・キャット 『Say So』

猫
同曲はTikTokのダンス動画をきっかけに火がついた(Getty Images)

南アフリカとユダヤ系白人のミックスというバックグラウンドを持つ、女性ラッパーによるナンバーワンヒット曲。ゼロ年代に流行したフィルターハウス的なビートにカッティング・ギターを乗せたトラックが最高に気持ちいいサマー・アンセムだ。でもこの曲が最優秀レコード賞を獲らなくて本当に良かった。

なぜならプロデューサー兼作曲家としてクレジットされているタイソン・トラックスなる人物は、女性シンガー、ケシャへのセクハラによって業界を追放されたはずのドクター・ルークの変名だから。もし最優秀に輝いてしまったら、グラミーはどう対処したのだろうか? そんなわけでグラミー運営サイドの危機管理の甘さに不安を覚えてしまうのだった。

ビリー・アイリッシュ 『Everything I Wanted』



こうした強力なナンバーを打ち破って、栄冠に輝いたのは昨年に続いてビリー・アイリッシュだった。「恐るべき天才少女」として彼女の名は永遠に語り継がれていくはずだ。

ただしアーティストとしてのビリー・アイリッシュは、サウンド・メイカーであるフィニアス・オコンネルとの兄妹ユニットなのだが(インタビューでフィニアスは「兄妹ユニットほどダサいものはない」と、戦略的に妹だけ前面に出したと語っている)。いずれにせよ同世代だけでなく、オルタナロック的価値観の最後の砦として中高年に愛されていることが勝利につながったのだと思う。

しかしビリー本人は、メーガン・ザ・スタリオンが受賞すると思っていたようで、受賞スピーチでは「本当に恥ずかしい」と遺憾の意を表明している。

今後のあり方を問われる審査員たち


だが本当に恥ずかしがるべきなのは、2020年最大のヒットシングルであり、ロックダウン下の世界の閉塞感と刹那をこれ以上ないくらい表現していたウィークエンド『Blinding Lights』を、どの賞からも締め出したグラミーの審査員たちだろう。

噂によればスーパーボウルのハーフタイムショーに選ばれたウィークエンドと運営側が、授賞式番組内でパフォーマンスするかどうかをめぐって揉めたことがこうした結果に繋がったというが、授賞式をエンタメ番組として制作する意義について疑問を感じずにはいられない。

個人的には、グラミー賞を単なるネット投票やセールス記録の反映にすることには断固反対だし、賞の授与を通じて実力派アーティストに光をあてる行為も必要だとは思う。しかしこれまでのような上から目線の賞のあり方が限界に達していることも事実なのだ。

連載:知っておきたいアメリカンポップカルチャー
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文=長谷川町蔵

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