グラミー賞の偏った審査の実態 2021年候補曲から解説

ビリー・アイリッシュは2年連続で最優秀レコード賞を受賞したが……(Getty Images)


ビヨンセ 『Black Parade』
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R&Bの女王が、アメリカの奴隷解放宣言を記念する6月19日にサプライズ・リリースしたチャリティ・シングル。「さあ行くわ 王座に高々と座って/私のパレードについてきて、ブラック・パレードに」と、黒人としての誇りを力強く歌いあげている。音楽的にはゴスペル、そして声優として参加した映画『ライオン・キング(2019)』をきっかけに、同作のイメージアルバム『The Lion King: The Gift』からチャレンジしはじめたアフリカン・ミュージックからの影響が強い。

そんなわけで社会的意義と音楽性は素晴らしかったのだが、シングルチャートでは最高37位と、大ヒットには至らなかった。このため最優秀レコード賞は獲得できず。ただしベストR&Bパフォーマンス賞ほか、4つの部門で受賞したことで、ビヨンセのグラミーの総受賞数は28となり、女性アーティストとしての歴代最多記録を更新した。
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メーガン・ザ・スタリオン フィーチャリング ビヨンセ 『Savage』

ビヨンセ
メーガン・ザ・スタリオンは昨年TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた(Getty Images)

2020年にデビューアルバムをリリースして最優秀新人賞に輝いた女性ラッパーが、同郷テキサス州の先輩であるビヨンセを招いた大ヒットシングル(最高1位)。強烈なトゥワーク・ダンスがトレードマークのメーガンだが、MCとしてはオーセンティックな実力派で、非トラップなビートの上でこそ映えるラップを披露している。

『Black Parade』では肩肘張った感じのビヨンセも楽しそう。最優秀ラップ・パフォーマンスと最優秀ラップ・ソングを獲得したのも納得である。ただしメーガンの曲なら、カーディ・Bと共演して、記録的なヒットとなったセックス賛歌『WAP』こそ最優秀レコード賞にノミネートされるべきだったと思う。

ポスト・マローン 『Circles』



デビュー以来快進撃を続ける、白人ラッパーのサードアルバムから生まれたナンバーワンヒット曲。ラッパーといってもこの人の場合、流行っていたからヒップホップを選んだというだけで、佇まい自体は極めてロック的だ(曲作りはギターで行っているそう)。

『Circles』はそのロック色を全面開花させたナンバーで、エモい歌詞と爽やかなコード進行で新たなファンを獲得した。最優秀レコード賞はともかく、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞は、ハリー・スタイルズ『Water Melon Sugar』ではなく、この曲が獲得すべきだったと思う。

デュア・リパ 『Don’t Start Now』

アルバニア系英国人女性シンガーによるディスコ・オマージュなダンス・チューン。この曲がノミネートされたのは、セールスはもちろん、彼女のゲイ・コミュニティにおける人気の高さも反映されたはず。

しかし過去にクラブ・チューンで最優秀レコード賞を獲得した楽曲は、ダフト・パンク『Get Lucky』だけなのも事実である。よって残念ながら落選。ただし同曲収録の『フューチャー・ノスタルジア』は、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞に輝いた。
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文=長谷川町蔵

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