ビジネス

2021.04.27

組織は一つの「生命体」 創造的対話を生むための組織デザイン

中村真広(左)と安斎勇樹(右)


安斎勇樹が優れた「創造的対話」を行なっている企業の1社としてあげたのは、デザイン・ビジネス・テクノロジーをかけあわせた場の発明を行うツクルバだ。

失敗が生んだ「熱く対話する場」


安斎勇樹(以下、安斎):2020年、創業時からのコーポレートアイデンティティ(CI)と、その象徴であるコーポレートロゴを刷新しました。ツクルバが面白いのは、それをトップダウンでやったのではなく、全社で対話をしながら、急成長する組織の求心力を高める契機として生かしたところだと思います。

中村真広(以下、中村):実は、その成功の前に一度、「第1ラウンド」で失敗したんですよ。2019年7月の東証マザーズ上場を前に、CIの見直しをしたいというのは、もともと考えていた。まず外部のクリエイターらと議論を重ね、新しいコンセプトやロゴのイメージ案をまとめました。それを、経営層として社員のみんなに「この方向で進めている」と共有したところ、批判が殺到してしまって。

デザインや細部のよし悪し以前に「この案には、自分たちの声がまったく生かされていないじゃないか」と。反省しましたね。メンバー一人ひとりにとって、ツクルバとはどういう存在なのか。熱く対話する場を、実はみんなが求めていたんだと気づきました。

仕切り直して「第2ラウンド」へ。まず、全社から若手を中心としたプロジェクト委員会を組成。安斎さんをはじめとした外部の皆さんの力も借りながら、ボトムアップでツクルバのありたい姿や大切にしている哲学つついて話し合うところからやり直しました。

安斎:経営陣として、どのくらいの強さで手綱を握っておくべきなのか。組織が大きくなればなるほど迷うものです。手綱を緩めて、現場に委ねることに対して不安はなかったんですか。

中村:なかった、といったらうそになりますね。ただ、ロゴに関していえば、そもそも今回のリニューアルのテーマが「創業者2人のロゴから、みんなのロゴへ」というものでした。「第1ラウンド」での失敗も踏まえれば、手綱を緩める選択肢しかないと思った。「みんな」というのは、従業員だけではありません。ユーザーや株主など、あらゆるステークホルダーを含みます。

安斎:僕が提唱する創造的組織のデザイン原則「CCM(Creative CultivationModel)」に照らし合わせると、CIを刷新するプロセスは、目に見える形で掲げる「哲学」を編み直す営みです。ツクルバの場合、「第1ラウンド」で経営層のアイデアを下ろしていこうとしたら、より下層にある従業員個人の「内的衝動」──つまり違和感が表出した。現場の「衝動」を、「第2ラウンド」で前向きなエネルギーに昇華できたのがよかったのではないでしょうか。

百数十人以上の規模に達した組織で、上から下りてきた案に対して現場から違和感がきちんと表出されること自体が、すごいと思うのですが。

中村:ツクルバのなかで、日常的に対話を重んじる文化が定着していたのは大きかったと感じます。

安斎さんは、組織における「対話」のあり方を、性質の異なる4段階で定義していますよね。

安斎:当たり障りのない雑談のような「儀礼的対話」、感情や意見をぶつけ合う「討論的対話」、さらにその背景にある価値観や「その人らしさ」に思いを馳せようとする「探究的対話」。それが進展すると、「創造的対話」へと深まっていきます。互いの思いや立場の違いも共有しながら、ともに前を向いて新しい価値を生み出していく段階です。

中村:ツクルバのミッションは、「場の発明を通じて欲しい未来をつくる」。これってまさに「創造的対話」と同義なんです。事業を通してそれを実現するだけでなく、組織全体にも浸透させ、個人の主体性を育めていたのならうれしいですね。

安斎:組織開発には「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」の両方が必要なんですよ。「ケ」の積み重ねはすごく大事なのだけれど、それだけでは足りない局面もある。CIの刷新という「ハレ」の機会に、みんなの熱や思いをあらためて吸い上げられた。結果として、組織全体がより一層活性化したのではないでしょうか。
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文=安斎勇樹(1、2ページ) 文=加藤藍子(3、4ページ) 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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