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2021.04.27 08:30

組織は一つの「生命体」 創造的対話を生むための組織デザイン

中村真広(左)と安斎勇樹(右)

中村真広(左)と安斎勇樹(右)

進化する個人の働き方、変革を続ける企業、変化する個人と組織の関係性、この3者の交差点は、いまどこにあるだろうか。4月24日発売のForbes JAPAN6月号では「新しい働き方・組織」論を特集。それぞれ異なる方向性で進んでいたように見えた議論が、コロナ禍の新常態にリンクをしはじめた。本誌掲載記事から一部をお届けする。


安斎勇樹が提唱する樹木の模式図


創造的な組織づくりには「対話」が不可欠である。

組織開発、理念浸透、新規事業開発、1on1コミュニケーション、心理的安全なチームづくり、リモートワークの推進。組織のあらゆる場面で、「対話」を重ねることの重要性を耳にするようになった。その背景には、さまざまな実務的な理由が考えられる。ひとつは、多様な価値観をもつメンバー同士の「わかりあえなさ」を乗り越えて、相互理解を深めるため。次に、一人では生み出せない新しいアイデアを、コラボレーションによって生み出すため。最後は、顔が見えにくくなったリモートワーク環境において、お互いの感情や本音を共有するためだ。

いずれの考察も正として認めながらも、本記事ではあえて角度を変えて、現在注目されている「組織の創造性(organizationalcreativity)」の観点から、対話の意義について理論的に再考したい。

「組織の創造性」は階層的


創造性に関する学術研究の系譜をたどると、最も蓄積があるのは「個人の創造性」の知見である。長きにわたって、私たちは「クリエイティブなアイデアにあふれる個人」に憧れを抱き続けてきた。1960年ごろから心理学実験が繰り返し行われ、創造的思考を発揮するための要件について、研究が重ねられた。いかに個人が固定観念から自由になれるか、いかに個人が内発的動機(衝動)に基づいて行動できるかなどが、個人の創造性の源泉として尊重されるようになった。

2000年代になると、研究の潮流は「チームの創造性」、すなわち集団のコラボレーションへと関心が移っていく。多様な視点をもったメンバーでチームを構成し、対話を通してそれらの視点を交錯させ、新しい意味解釈が生まれ続ける状況こそが、創造性発揮のメカニズムとして、理解が深められた。

最近では、経営学領域で「組織」を主語にした学習や創造性の理論的研究が進んでいる。組織が掲げる理念が洗練され、組織や事業そのものが刷新されていくプロセスこそが、組織レベルの創造性として、注目されるようになってきた。

このように、組織の創造性は「個人」「チーム」「組織」の各層によって発揮される。これらが階層的かつ有機的に接合することで、イノベーションが生まれ続ける組織の土壌が実現するのである。

組織の創造性を賦活するための指針として、筆者らが掲げる「Creative CultivationModel(CCM)」が役に立つ。これは、組織の創造性が階層的に発揮され、接合している状態を樹木に見立てて表した模式図である。CCMは、具体的な手順を示したモデルではない。組織の創造性の全体性を見失わないように、健全さを保つための見取り図といえる。

まず、組織の心臓としての「哲学」が掲げられているかどうか。「哲学」とは、経営理念、ビジョン、ミッション、パーパスなど、さまざまな形式が考えられるが、在り方が組織の内外に向けて明確に言語化されていることが重要である。何年も前に掲げた理念が、形骸化してしまっている企業は少なくないはずだ。コロナ禍は、多くの企業にとって自社の理念を見つめ直す機会になったはずだ。

続いて、「哲学」を体現した「事業」と「組織」の構造がかたちづくられているか。具体的には、事業が哲学を体現するための手段になっているか。組織の評価制度やレポートラインにも、目指す哲学が反映されているか、などの観点が重要である。地上にそびえ立つ「組織」「哲学」「事業」の構造を、一貫させながらも刷新し続けることが、イノベーションに直結する。
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文=安斎勇樹(1、2ページ) 文=加藤藍子(3、4ページ) 写真=小田駿一

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