金山裕樹が創業したVASILY(ヴァシリー)は、ファッションコーディネートアプリの「iQON(アイコン)」を運営。提携するECサイトのファッションアイテムを自由に組み合わせ、かつ100万件以上の他ユーザーのコーディネートも閲覧可能で商品購入までできる。2014年10月にはKDDIを割当先とした第三者割当増資を実施した。
伊藤忠テクノロジーベンチャーズの河野純一郎パートナーは創業3年目の11年5月に投資を行った。
河野:いま、「絶好調ですね」とよく言われますが、言われれば言われるほど危機感しかありません。13年のシリーズBの3億円調達時に、僕が油断して「5合目ぐらいまできたな」と金山さんに話をしたら、「いや、まだまだ。靴ひもを結んだくらいだ」と言い返されました。成長しても常に足りないという自覚をもちながらやるというスタンス―目指す頂きが高いからこそ、それはいまでも変わっていません。
金山:現在、200万人以上のユーザーがいますが、すべて国内。インターネットサービスを運営する素晴らしい企業を見ると、海外ユーザーが多く、本当の競争はこれから始まるという気持ちです。
なぜなら、ファッションメディアについては、インターネット業界がまだイノベーションを起こせていない領域。グローバルで一社も成功していない難易度の高い挑戦ですから。いま、「Ruby」開発者のまつもとゆきひろさんが技術顧問に、『ELLEgirl』前編集長の澄川恭子さんがエディトリアルプロデューサーに就任するなど、素晴らしい人材が集まり、挑戦権を得た段階だと思っています。
河野:僕自身も投資家として、非常に難しい領域だと覚悟しています。しかし、難しいことが投資しないという理由にはならないと思っています。
金山さんは、世界観やブランドといった右脳的な感性が必要なファッション業界と、左脳的なロジック重視のテクノロジー業界という交わりにくい特殊領域のなかで、両方の特性を理解している唯一絶対の起業家。そして、ベクトルが自分自身に向くのではなく、世の中をよくしたいというところに向いており視座も高い。それに加え、強力な実行力、推進力を併せ持つ、やり切るタイプの事業家だと強く感じています。
金山:僕らは78年生まれで、ファッションが生み出す文化が、人の創造性や生活をポジティブにする“強さ”があることを思春期に体感してきた世代。そして、その強さが多くの人に影響を与えることも知っている。だから、難しい挑戦でも、成し遂げた後のインパクトや達成感、言い換えると「やったった感」がとても大きい。これからは、テクノロジーをより極め、人々の生活に貢献するイノベーションを起こしていきたいですね。
河野:金山さんは、投資家の知見やネットワークをうまく成長につなげる。現CFOの千葉大輔さんは、僕の前職・ジャフコの後輩で、クックパッドの上場を経験した優秀な人物。別の企業に行きそうなところを「もっといい会社があるよ」とVASILYにきてもらいました。投資家が自分の信頼する人間や投資家を巻き込めば巻き込むほど、当事者意識が増していく。
だから、いまでは、投資先の1社というだけではなく、絶対に成功させなければいけない1社で、世の中に絶対に必要な会社だという妙な使命感を感じています。金山さんは、そういうことを感じさせる起業家だと思います。人使いは荒いですけど(笑)。