西山さんは大学卒業後、就職と結婚を経て子供を授かる。ジムニーはファミリー向きの車ではない。西山さんは泣く泣く手放し、ミニバンを購入した。
しかし、「ジムニーを所有したい」という思いを抑えきれず、子供が成長した頃合いを見計らって、2016年に再びJA11を中古で購入する。購入時の価格は走行10万キロで55万円。「状態がいい2代目にしては手ごろな価格だった」(西山さん)という。とはいえ大きく値崩れしないということは、それだけ需要があるのだろう。
自ら信者であることを認める西山さんに、ジムニーの一番好きなところを尋ねると、「無骨なデザイン」と言い切る。一方で乗り心地については「自分が乗っている2代目は正直言ってあまりよくない」と苦笑するが、「乗っているだけで楽しい」と魅力について熱く語る。
ジムニーから得られるものを尋ねたところ、「優越感」と一言。「とにかく見た目がカッコいいし、軽で四駆というポジショニングも素晴らしい。他にない車だから乗っていると優越感を覚える」と言い、これからもずっとジムニーシリーズに乗り続けるつもりだという。
開発コンセプトは「世界に認められるコンパクト4 x 4」
ここまで熱狂的な信者を抱えるジムニーは、どのような思想で設計されているのか。スズキに取材を申し込んだところ、新型ジムニーの開発責任者である米澤宏之チーフエンジニア(CE)が快く取材に応じてくれた。
新型ジムニーの開発コンセプトは「本格的な4WD性能と無駄のない機能美を併せ持つ世界に認められるコンパクト4x4」(スズキ株式会社提供)
米澤CEによると、新型ジムニーの開発コンセプトは「本格的な4WD性能と無駄のない機能美を併せ持つ世界に認められるコンパクト4x4」。
開発にあたっては、ユーザーに限らず幅広い層に対しヒアリングを行なったという。その結果を受け、新型ジムニーの想定ユーザーとして3つの層を設定した。
ジムニーの性能を最大限活用する「プロユーザー層」、生活の中でジムニーを使用している「日常ユーザー層」、ジムニーにあこがれをもっている「フォロワー層」である。これら3つの層は、具体的なターゲットの人物像を意味する「ペルソナ」に該当する。
ペルソナは3層を設定する一方で、開発の際は「プロユーザー層を満足させること」に焦点を当てた。
ジムニーは世界的に見るとプロのユーザーが多い。例えば、欧州ではハンターや森林保全のプロが愛用。豪州では広大な農場で使用されている。各国で、プロたちが「仕事の相棒」として使用しているわけだ。
デザインは、専門家が愛用する「プロの道具」をコンセプトに、機能に徹した、飾らない潔さを追求することに決めた。機能性を追求した結果、四角いフォルムが誕生した。米澤CEは「プロの使用シーンを明らかにした上で、それを機能やデザインに落とし込んでいった。そうすることで、結果的に幅広い層から支持が得られると踏んだ」と振り返る。
狙いは当たった。新型ジムニーは、プロユーザー層だけでなく、3層から支持を得たのだ。
ペルソナは3層を設定する一方で、開発の際は「プロユーザー層を満足させること」に焦点を当てたという