「VTuber」ブームの仕掛け人
──現在のVTuber、VR事業を選ばれた理由をお聞かせください。
コンテンツビジネスは新しいデバイスの登場によって急成長するビジネスです。例えばプレイステーション、iモード、スマートフォンといったデバイスの普及と共に、新しいコンテンツが生まれてきていますよね。
私がこれまで経験した仕事も、最初は家庭用ゲームから始まり、ゲームボーイやiモードにコンテンツの主戦場が変遷する流れを見て来ました。前回起業したサンゼロミニッツも、iPhoneが発売された一か月後に日本で初めてGPS対応したiPhoneアプリとしてローンチしています。
歴史的に起きている波を見ているので、ある意味タイムマシン経営をしながら今回の事業を選定しようと考えました。
しかしながら、私が創業した2016年頃にはすでにスマートフォンブームは終わってしまっていました。じゃあ次の波は何か、と考えた時にロジカルに出て来た答えが「VR・AR」だったのです。
実は先ほど散々なフィードバックをもらったとお話ししたピッチイベントの翌日に、私は京都で開催されていたゲームの展示会に行きました。そこに出展していたFacebook子会社のフェイスブック・テクノロジーズが開発するVRハードウェアとソフトウェア製品ブランドOculus(オキュラス)の方と仲良くなり、帰りのバスの中ではもう「VRで勝負するしかない」と決めていましたね。
──すごいスピード感ですね。とはいえ、実際にVR・ARが普及するかどうかは現在もまだわからない状況です。まさに市場の黎明期だった創業時の2016年に、どのようにして周囲を巻き込まれていったのでしょうか?
市場全体が立ち上がらないと、会社が成長することはできません。そう考えた時に、日本ではVR領域に対する資金流入が圧倒的に足りていないことが最初のボトルネックでした。海外ではすでにVR専門の投資ファンドがいくつも出来始めていたのです。
なのでモバイルオンラインゲーム事業などに精通されているgumi(グミ)の国光宏尚さん(gumi取締役会長)にVR専門ファンドの企画を提案し、国光さんが2015年に実際に立ち上げてくださったのがTokyo XR Startupsでした。同社は弊社の株主としても参画してくださっています。
資金調達ができないほどの市場黎明期なのだとしたら、ファンド自体を自ら提案して作ってもらう。そうすることで、日本のVRコンテンツが世界と戦える土壌をつくることを考えたのが最初の一手でした。
──黎明期で資金流入が無いなら自分でファンドを提案してしまう、というのは非常に新しい発想です。3つめのポイントである「収益性を確保できること」についてもお聞かせください。
市場黎明期に収益性を確保するためには、ビジネスモデルがシンプルであることが大切だと思っています。
例えばSaaSは導入してもらえれば月額課金で収益になりますが、逆に、私が以前在籍していたアットコスメのようなメディア型ビジネスは複雑なビジネスモデルです。なぜなら最初に人気メディアとして地位を確保する必要があり、その上でさらにBtoBのビジネスをしっかりスケールさせないといけない。つまり二段階のハードルがあるのです。
我々が今やってるビジネスも、VTuberのコンテンツを提供し、それに対して投げ銭して頂いたり、グッズを買っていただくというシンプルなモデルです。ビジネスモデルをシンプルにすることは、特に市場黎明期で事業を展開するスタートアップにとっては大切なポイントだと思います。
(第3話 ホロライブはVtuberのためのアプリ開発を行う「インターネット屋」である|カバー 谷郷元昭CEO #3 に続く)
谷郷元昭(たにごう・もとあき)◎1973年生まれ。カバー 代表取締役社長CEO。慶應義塾大学理工学部を卒業後、イマジニアでゲームソフトのプロデュースを担当後、携帯公式サイト事業を統括。化粧品口コミサイト@cosme運営のアイスタイルでEC事業立ち上げ、モバイル広告企業ユナイテッドの創業に参画後、サンゼロミニッツを創業。日本初のGPS対応スマートフォンアプリ「30min.」を主軸としたO2O事業を展開し、イードへ売却。2016年にカバーを創業。
連載:起業家たちの「頭の中」
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